イパアトル》が泰赤宇徒《タイチュウト》人に攻められた時、あの危急存亡の場合に僕を助けてくれたのは、君だった。羊毛を積んだ車の中に、三日三晩僕を匿って、君がその番をしてくれた――。
合爾合《カルカ》姫 泰赤宇徒《タイチュウト》の兵隊が、あなたの隠れていらっしゃる羊毛のなかへ、何度も剣を突き刺すので、妾、はらはらしましたわ。
成吉思汗《ジンギスカン》 それより、滑稽だったのは、いくら捜してもいないもんだから、泰赤宇徒《タイチュウト》の奴らが君の瑣児肝失喇《ソルカンシラ》の荘園を出て行ってからさ。やっと車から這い出して、いや、食べた、食べた。なにしろ、三日目に食い物にありついたんだからねえ。まったく、あの時の羊の肉は美味《うま》かったなあ。今でも忘れないよ。
合爾合《カルカ》姫 ええ、そうそう。あなたったら、いくらでも召し上るんですもの。妾、お腹《なか》がどうかなりはしないかと思って、ずいぶん心配しましたわ、ほほほほほ。
成吉思汗《ジンギスカン》 あ、笑った! あ、笑った! 合爾合《カルカ》が笑った。とうとう合爾合《カルカ》を笑わせたぞ、あははははは。(ふと心づいて冷静に月を仰ぐ)ふむ、おれ
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