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合爾合《カルカ》姫 (素っ気なく)存じません。
成吉思汗《ジンギスカン》 そうかなあ。あの森を忘れたのかなあ。僕あよく覚えてるがなあ。
合爾合《カルカ》姫 (うっかり釣り込まれて、低声《こごえ》に)黒雲の森――。
成吉思汗《ジンギスカン》 (膝を打って)そうそう! 黒雲の森、黒雲の森! あの森の端れに、小川のあったのを思い出さないかい?
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寝台に突っ伏して、姫は無言。
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成吉思汗《ジンギスカン》 忘れっぽいんだなあ。あの、そら、僕がよく羊の群れを追って、水を飲ませに行った川さ。岸に水草が一ぱい生えて、春さきなんか、ぞっとするほど冷い水だった――月夜の晩は、あの小川が銀の帯のように光って家の窓からよく見えたことを思い出すよ。懐しいなあ。
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合爾合《カルカ》姫は冷い沈黙をつづける。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (突然笑いこける)ははははは、そうそう、君は手桶を抱えて、よくあの川へ水を汲みに来たものだねえ。
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