と膝を抱いて、月に見入る。どこからか兵士の奏《かな》でる胡弓《こきゅう》の音が漂ってくる。姫は寝台に身を起して、じっと不思議そうに成吉思汗《ジンギスカン》を見詰めている。長い沈黙がつづく。咽ぶような胡弓の調べ。舞台一面の青白い月光、やや傾きそめる。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (ひとり言のように)あれから何年になるかなあ。君あ記憶《おぼ》えているかしら。まだ、僕のおやじ、也速該巴阿禿児《エスガイパアトル》が生きているころ、僕の家と君の家は、森ひとつ隔てていたねえ。
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姫は意外な面持ちで聞き入っている。
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成吉思汗《ジンギスカン》 ええと、あの森は何てったっけな――何といったっけね、あの森は?
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合爾合《カルカ》はつんと横を向いて、答えない。
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成吉思汗《ジンギスカン》 あの、ほら、真ん中辺に、こんな大きな樹が三本立ってる森さ。忘れた
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