ともございません。(と嘘を言う。淋しく笑って)降伏の条件に、敵将の妻を所望なさるなどとは、きょうという今日こそは、あなたという人間に愛想がつきました。妾は、良人と、城下の人々を助けるために、来たのです。(強く寝台に起き上り、きっと成吉思汗《ジンギスカン》を睨み据えて、物体のように身を固くする。もう観念して、自暴自棄的にすべてを投げだしたこころ。鋭く)成吉思汗《ジンギスカン》! 勝ち誇った成吉思汗《ジンギスカン》! 何百人、何千人の犠牲《いけにえ》になってきたこの身体《からだ》を、さ、思う存分にして下さい! さ、なぜ早く自分の有《もの》にしないのです。(と眼を瞑《つぶ》る)
成吉思汗《ジンギスカン》 なにを――。
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と、つかつかと寝台へ歩み寄る。が、姫の覚悟に気圧《けお》されて、ぴたりとそこへ釘づけになる。凄まじい間。姫は堅く眼を閉じ、身動きもせずに、成吉思汗《ジンギスカン》の襲って来るのを待つ。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (窒息的な間。激しい独り語)おれの気持を察して、部下がこの計らいをしてく
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