《ジンギスカン》 (苦しそうに)もう夜が更ける。あそこの寝台へ行って、ゆっくり休むがいい。不自由な籠城が続いて、さぞ苦しかったことでしょう。そう言えば、すこし瘠せたようだが――。
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合爾合《カルカ》姫は、顔を掩って寝台に進み、静かに羊の皮の上に身を横たえ、近寄って来たら一突きと、それとなくふところの懐剣を握り締めて身構える。憎悪に満ちた眼で、成吉思汗《ジンギスカン》を凝視《みつ》める。
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成吉思汗《ジンギスカン》 (皮肉に)御主人はいかがです。最愛の妻を、こうして一人敵の陣中へ寄越して、みずから助かろうとする札木合《ジャムカ》、おれは、あなたのためにあいつを憎む。あいつを呪う。
合爾合《カルカ》姫 いえ、それは違います。妾はあの人に隠れて、そっと忍び出て来たのです。
成吉思汗《ジンギスカン》 (面《おもて》を輝かして)おお、それではあなたも、この長の歳月、この成吉思汗《ジンギスカン》を想っていて下されたのか。
合爾合《カルカ》姫 (冷やかに)なにを仰せられます。妾はあなたのことなど、思い出したこ
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