く近く半鐘が鳴って火消しが集まりつつあった。場所が祭の雑沓なので、騒ぎは倍にも三倍にもなった。
お駒ちゃんは、その天人姿の扮装《ふんそう》のまま舞台をいったり来たりして走りながら、叫ぼうとしてけむりにむせる。お駒ちゃんは、下の土間に立って、人にはさまれて袖で口をおおっている磯五を見たのだ。磯五は茶人のような頭巾を脱いだことがないので、どこにいてもすぐ眼につくのだ。磯五は、左右に一人ずつ女を抱きかかえて、きちがい犬のように見にくく取り乱してあちこちよろめいていた。
お駒ちゃんは一瞥《ひとめ》でその二人の女をみて取った。それは磯屋のお針頭のおしんと、もう一人の若いほうは、小間使いのお美代であった。お美代は、小間使いというよりも、お駒ちゃんが磯屋を出たあとは、おおびらに磯五の妾《めかけ》のようになっている女であった。おしんは、以前《まえ》から磯五とそういう交渉があって、お駒ちゃんのいたころから、お駒ちゃんとおしんのあいだには、いざこざが絶えなかったものだ。
がお駒ちゃんは、いまその女たちのことをどうこう恨みがましく考えているのではなかった。ただ、お駒ちゃんがよく見ると、磯五がおしんとお美代をかかえているのではなくて、おしんとお美代が左右から磯五に取りすがって、磯五の進退の自由を奪っているのだ。
お駒ちゃんは、その二人の女へのくやしさなどはこの場合忘れていた。そんなことはどうでもよくて、三人を助けたかった。ことに磯五は、何とかして救い出したかった。何ともして助けなければならなかった。
ところがお駒ちゃんが夢中で舞台を飛びおりて、人をかき分けてやっと磯五のまえまで行くと、磯五とおしんとお美代と三人がいっしょにお駒ちゃんを見つけて、三つの口が同時に叫んだ。それは叫んだのではなくて、叫びも何もしなかったのを、お駒ちゃんにだけ、まるで三人が叫びでもしたように、大きな声で聞こえてきたのかもしれなかった。
磯五の声は、こう聞こえた。こう聞こえたような気がした。
「お駒! 苦しい。助けてくれ! おしんとお美代がおれを殺そうとしているのだ」
それと同時に聞こえた、あるいは聞こえたような気がしたおしんとお美代の声は、全くおなじ文句であった。
「お駒さん! 近寄っちゃいけません。近よらないでください。あたしたちは、ふたりとももっと苦しいんですよ。ですから、二人で相談して、いま、こ
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