るという趣向も、受けたのだ。がお駒ちゃんはほんとのことをいうと、あまり感心しなかった。こんなものよりも、その前に二、三度出た、日本一太郎の指先の手品に心から感心していた。
出幕になって、お駒ちゃんは、羽衣天人のような着つけで舞台に立った。気おくれがしたが、一生懸命に踊った。見物のほうは一面の顔で、その顔を見わけることはできなかった。白いもの、黒いもの、黄色いものが重なり合って、ぼやけているだけだ。
舞台からすぐ近くのところに、磯五が、お美代とおしんをつれて、左右にすわらせて見物しているのなどは、お駒ちゃんののぼせた眼にははいらなかった。何も見ず、何も感ぜずにただ踊った。からだいっぱいと心いっぱいで踊った。かすかに感嘆の声を聞いたようでもあった。
日本一太郎の扮《ふん》している三保の漁師が眠っている上を軽く飛んで踊るところへきた。ここには、いろいろとむずかしい所作があるのだ。お駒ちゃんは夢中でそれをつづけていた。舞台のあちこちに蝋燭がついて、それが、お駒ちゃんの袖や裾にあおられて高く低くゆらいだ。その加減で、書き割りの雲がかげったり浮かんだり、走ったり止まったりするように見えた。
眠っていた漁師が起き上がった。お駒の天女と、日本一太郎の漁師と、ふたりもつれ合って踊りになった。漁師が追いかけると、天女は逃げるように舞った。戦うような、からむような仕ぐさだった。漁師の手が届きそうになると、天女はするりとかいくぐってかわした。そこで雲に作られた大きな板が一枚、ふわりとおりてきて、その蔭《かげ》にお駒ちゃんがつかまって釣り上げられる仕組みだった。それで、お駒ちゃんが消えたように見えるのだった。
その大事なところへきたので、お駒ちゃんが踊りにまぎらして上を見ると、雲の板が降りかけていた。お駒ちゃんはちょっと身構えをして雲を待った。一瞬間だが、しんとしたなかに見物の息づかいと蝋燭のゆらぎが感じられた。その蝋燭の光がだんだん大きく明るくなるような気がして、お駒ちゃんがふと奇妙なことに思ったとき、見物席に波のような怒号が沸いた。男と女と老人と子供の声のまじった、山くずれのような叫喚《さけび》であった。
お駒ちゃんははっとして、われにかえったような気がした。ぱちぱちと木のはぜ[#「はぜ」に傍点]る音がお駒ちゃんのまわりにあった。大きな赤い舌が舞台と書き割りと壁の筵と板囲いと
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