り手を焼いたのさ。それはそうと、お前さんはまだ茶番のほうかい」
「そうそう。そういえば、田川では、おいらは茶番のまねみてえなことをやっていたっけな。おめえは大名題《おおなだい》――なに、今だって、いつだって、おいらは茶番をやっているのだ。生きて行くてえことが、それだけで茶番なのだ」
「また十八番《おはこ》がはじまったねえ。それはそうだろうけれど、両国の小屋では、何をやっておいでだときいているのさ」
「おいらはもとから手妻師なのだ。両国でも、手妻のほうをやっているよ」
「あたしも、いまになってみると、いっそ芝居のほうをやり通してくればよかったと思っているのさ。何やかや、おじいさんには、聞いてもらいたいことが山のようにあるんだよ」
二人はちょっとしんみりして、押し黙って、狭い藤代町の通りを歩いて行った。陽の弱よわしい夕方近いころで、通る人の影が、寒く長く路上《みち》に倒れていた。やがて、下《した》っ端《ぱ》芸人などの泊まる、木更津屋《きさらづや》という軒|行燈《あんどん》を掲げた安宿の前へ出ると、日本一太郎は、顎《あご》をしゃくって、お駒ちゃんをかえりみた。
「ここだ」
昼の風呂《ふろ》
一
「おめえ様は、くたびれていなさる」日本一太郎は、一なでなでるような視線で、おちぶれたお駒ちゃんのようすを見ながら、いった。「一しきり横になって、休んだがいいぜ」
が、お駒は、狭い二階の縁にぺちゃんとすわって、欄干に肘をかけて下の往来を見ながら、声だけ日本一太郎のほうへ向けて、
「あい。くたびれてはいるけど、あたしゃ昼寝られない性分でね。まあ、こうやってぼんやりさせていてもらおうよ。それより、あれから後のお前のはなしでも聞こうじゃないか」
「おれのはなしなんて、何もいうこたあねえ。判で押したように、きまりきったもんだ。おいらはどだい手妻つかいなんだから、ああして田川の一座がこわれてから、もとの東西東西にけえって諸国をうろついただけのことよ。
ゆきさきの食いものと女だ。なあ、それぞれ味が違うから、若えうちあ面白いが、おいらみてえに、こう年齢《とし》をとっちゃあからきし意気地がねえ。やっぱり江戸が恋しくて、この四月に舞いもどって来たんだ。今じゃあ、まあ、両国で、どうやらこうやら小屋を掛けているよ」
「そうかい。それはよかったねえ」お駒は、人間が変わった
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