なかった。やっぱりいざとなると行けないでぐずぐずしているうちに、日がたっていっそう行けないことになったのだ。
若松屋惣七は、もう掛川へ着いて、お高を待っているに相違なかった。
お高は佐吉を供につれて行くことになっていたので、佐吉は一日に二度も三度もお高の部屋へ顔を出して、いつ発足するつもりかとききに来た。お高は、行く気のないところへ、そういってこられるのが、苦しかった。それよりも、掛川で待っているであろう若松屋惣七と龍造寺主計のことを考えると、いっそう気が重くなって、そうやって逃げるように延ばしていることさえ、苦痛になった。
お高は、若松屋の留守の者にはゆき先を告げずに、そっと拝領町屋のおせい様の家《うち》に隠れてしまったのだ。
四
駒留橋を渡って、藤代町の宿へ帰ろうとするところで、日本一太郎は、足をとめた。路《みち》ばたにしゃがんで、切れた草履の鼻緒《はなお》を、一時しのぎに何とかつくろおうとしている女の横顔に、眼が行ったのだ。
若い女だ。色あいの派手な、しかしよごれ切った衣裳を着けて、腰を二つに折っているので、太腿《ふともも》のあたりの肉が、着物のうえにむくむくして見えているのだ。女は、鼻緒は手におえないと知って、そこに落ちていた縄ぎれで草履を足にしばりつけて歩き出そうとした。
それは、お駒ちゃんであった。お駒ちゃんは、つぶらな眼をそわそわと動かしたが、じぶんを見ている日本一太郎には気がつかずに、そのままみすぼらしい身装《みなり》を恥じるように、軒下づたいに歩き出そうとした。
老いた日本一太郎の顔に、よろこびの色がうかんで、彼は、足早に追いすがりながら、声をかけた。
「おい、お駒太夫じゃあねえかい」
お駒ちゃんは、悪いことをしていたところをみつかりでもしたように、ぎょっとして立ちどまって、ふり返った。
「あら、誰? おや、日本一のおじいさんじゃあないの」お駒ちゃんは狼狽して「いやだよ。へんなところで会ったねえ」
「そっちはへんなところかもしれねえが、こっちは何も、へんなところではねえのだ。おいらはいま、そこの両国の小屋にかかっていて、これからついそこの藤代町のとやを帰《けえ》るところなのさ。それはそうと、久しぶりじゃあねえか」
「ほんとに久しぶりだねえ。あれから」
と、お駒ちゃんは遠いところを見るような眼になって「何年になるかし
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