を書いてくださいよ」
「よし。書いてやろう。が、高音、いま一度、考え直してみねえか」
「考え直すことはありませんよ。お前さまはわたしにとって、死んだ人ですからねえ」
「ここでおれと別れてどうしようというのだ。あの盲野郎のところへでも納まる気かい」
「そんなことは大きにお世話さまですよ。わたしはきれいにお前さまの女房でなくなって、自分の思うとおり、自ままにやってみたいのですよ」
「それもよかろう」
「そんなら、書いてくれますねえ」
「書きせえすれあいいのだろう」
「そうですよ。書きさえすれば、この証文をすっかりあなたに破かせてあげますよ」
「なに、破こうと思えば、いまふん[#「ふん」に傍点]だくったときに破くことができたのだ。もう一度ふんだくって、破いてもいいのだ。破いてしまえあ、それまでじゃあねえか」
「それはそうですよ。ではなぜ取り上げて破かないのですか」
「そこが磯五様のお情けというものだ」
「また何か悪だくみがあるのでございましょう。構いませんから早く離縁状を書いて、証文を取っかえっこしましょうよ」
 磯五はさらさらと一札したためて、名前のところへ印形を押した。そして、お高に渡すにつけて証人がいるといって、お駒ちゃんを呼びこんだ。
 お駒ちゃんは、まだ泣いていたとみえて、眼を真っ赤にして、白粉《おしろい》のはげた顔のまま出て来てすわった。お駒ちゃんは、磯五とお高が正式に夫婦別れをする、その証人だと聞かされても、きょとんとして二人をながめているだけだった。手を重ねて、不思議そうにふたりのすることを見物していた。
 離縁状と交換に磯五の手に証文の束が渡されると、磯五は、にやにやしながら、それを片ッ端から丹念《たんねん》に破きはじめた。
 お高は、突ったっていた。ふらふらと磯五のほうへ泳いで行った。磯五が、何だ? という顔を上げたとき、その頬へ、お高の第一の拳が飛んで行った。
「何をするのだ」
「何をするも、かにをするもありませんよ。いつか若松屋惣七さまがわたしの証文を破いたとき、お前さまは若松屋惣七さまをあんなにおぶちになったではありませんか」
「うむ、そうか。それでいまおれを殴《なぐ》るのか」
 お高の白い握りこぶしが、弱々しい弧《ゆみ》を描いて磯五の面上に降りつづけた。お高は、泣いていた。すすり泣きながら、一つ二つと数えるように磯五をぶっていた。磯五は、じっと
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