、すぐいった。
「おめえに眼をかけてくださる大家《おおや》の坊っちゃんてえのは誰だ」
「大家なんかと町人みたいにいわれちゃお刀が泣くよ」お駒ちゃんは、威勢よく答えかけたが、気がついて、びっくりした。「おや、いやだねえお前さん、どうしてそんなことを知っているの?」
「どうして知っていようと、大きにお世話だ。何でも知っているのだ。そうか、さむれえか」
「さむれえもさむれえ、梅舎錦之助《うめのやきんのすけ》さまとおっしゃって、れっきとしたお旗本の御次男ですよ」
「芸人みてえな名だな」
「芸人みたいな名でも芸人ではないのですよ」
「部屋住みか」
「部屋住みだっていいのですよ」
「いくら部屋住みでも、料理人《いたまえ》の娘っ子を相手に、色の恋のとぬかしていると知ったら、さぞ喜ぶだろうなあ。おめえは下女奉公か、おででこ芝居にでも出ていりゃあちょうどいいのだ」
お駒ちゃんはたちまち紙のように白くなったが、久助とじぶんとのつながりがすっかり知れているらしいのであきらめて、ただもし磯五がその梅舎錦之助に、お駒が料理番の娘であることをばらすなら、じぶんはおせい様のところへ走って、磯五が、妹でも何でもない自分を妹に仕立てて、おせい様をだましていたことを打ちあけるとおどかすと、磯五が平気で、おせい様とのあいだはもうこわれてしまっているから、そんなことはどうでもいいというので、お駒ちゃんは、泣き出した。
三
お駒ちゃんはうれし泣きに、泪《なみだ》を流しているのだ。梅舎錦之助のことなどはけろりと忘れて、磯五がおせい様と別れれば、あとは自由に、自分といつかの約束どおりにいっしょになれるだろうというのだ。いつ晴れて夫婦になってくれるかとお駒ちゃんは、磯五にきいた。磯五は、笑い出していた。
「お駒ちゃん、おめえはいってえ何をいっているのだ」
「まあ! この人は。あれほどはっきり何度も何度も約束したくせに。その約束で、こういうことになったんじゃないか。まさかお前さんは、今になって白《しら》を切るつもりじゃあないだろうねえ」
お駒ちゃんは、とっさに悲しみに沈んでいた。その悲しみは、女として真剣なものだったので、お駒ちゃんは、急に崇高に見えてきた。磯五は、お駒ちゃんの蒼い顔と、おろおろと開かれた両眼に見入って、そこに避けられない近い将来の紛擾《ふんじょう》を読み取っていた。そして、女
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