おせい様が磯五の弁巧にだまされるにきまっているから、お高は、わざと知らぬ顔をして動かなかった。
 そのうちにおせい様に問い詰められて、磯五は、曖昧《あいまい》に事実を承認したような、しないような口ぶりをとったので今度は、おせい様のまえで、名ばかりの夫婦のあいだの口論になった。お高は、それをいやだと思ったが、磯五にいい負かされるのはなおいやであった。
 磯五のいうのは、夫婦であることはほんとうだけれど、夫婦であって、こうして夫婦でない生活をしているのは、すべてお高が悪いからで、だから、つまり夫婦ではないというようなことだった。この黒を白といいくるめようとするようないい草が、磯五の口から出てくると不思議に道筋立って聞こえて、どうかすると、お高が受け太刀《だち》になるようなぐあいであった。お高は、くやしくなって、半ば泣きながら部屋を出てしまった。
 あとで磯五は、舌に油をくれて一切の間違いをお高にかぶせようとしたが、おせい様は、もうすっかり眼がさめていた。磯屋につぎこんだ金はつぎこんだ金として、これできれいに別れようではないかといい出した。磯五はお高のほうが勝手なことをして逃げたのだといい張って、自分は、お高の生きていることを知らなかっただけだから、べつにおせい様をだましたわけではないと、美しい顔にあらん限りの魅力を見せてもう一度おせい様をごまかそうと努力した。
 おせい様は、うっかりそれに釣り込まれて信じようとしたが、すぐに思い返して、
「とにかく、この家《うち》を出て行っていただきましょうよ。あなたのようなお人は見るのもいやでございますよ」
 磯五は、にこにこしていた。
「そうですか。それで、お高はどうするのですか」
「お高さんはわたしのお友だちですもの、当分ここに遊んでいてもらうつもりですよ」
 立ち上がりながら、磯五がいった。
「いや、何といっても、あれはわっしの家内ですからやはりいっしょになりましょう。それが一番いいのです。そうして今度は、仲よくやってゆきましょう。どう考えてもこれが穏当ですよ」
 それは、おせい様にとって、このうえない残酷なことばであった。磯五は、そこをねらって射ったようなものであった。磯五は、おせい様が泣き出しそうな顔になるのをちょっと見て、にっこりして座敷を出て行った。
 おせい様は、あんな男に、自分のすべてをやったのだと思って、ひとりで泣
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