ったかどうか――そこらのところも、その木場の甚にただせばわかるかもしれない。
 とにかく、大変な金がお高を探して待っていて、それがいま、お高の手へころげ込もうとしている。金に興味のない一空さまだが、そう思うと、お高のために勇躍したこころになった。厚く伊之吉に礼を述べて、その不動新道の店を出た。

      三

 要橋《かなめばし》ぎわの吉永町《よしながちょう》に大きな家を構えて住んでいる木場の甚は、七十あまりの老人だが、矍鑠《かくしゃく》として、みがき抜いた長|火鉢《ひばち》のまえで、銀の伸べ煙管《きせる》でたばこをのんでいた。見慣れない坊さまの訪客に、ちょっと驚いたようだったが、柘植の家のことで来たと聞くと、あわてて一空さまを上座にすえて、会話《はなし》にかかった。
 一空さまは、前置きとして、和泉屋の伊之吉に話したことをもう一度くり返したのち、自分がそのおゆうの娘のお高を発見したというと、木場の甚は、にやりと笑って、いった。
「いままで何人となく、柘植のおゆうさんの娘をみつけたといって人が来ましたが、みんな贋《にせ》ものでございましたよ」
 そして、およしなさいましといわんばかりに、疑い深そうに一空さまを見た。一空さまは、むっとする感情を忘れている人なので、平気でつづけた。
 一空さまが、その娘というのは、もとここの古石場に住んでいて、死んだとき、すべてお前さまの厄介になった、相良寛十郎の娘で高音というのだから、お前さまがほんとに以前からおゆうさんの娘を探していたのならば、とうに気がついて、預かっている柘植の財産を渡しているはずだというと、木場の甚は、しばらく考えていたが、やっと思い出して、
「ああ、そういえば、そういうこともございましたよ。
 わたしは、宗庵先生とは御別懇に願い、また、おゆうさまからも財産の締めくくりを頼まれていたので、おゆうさまが京阪《かみがた》のほうでなくなってからは、和泉屋とも相談をして、柘植の財産をそっくり預かっておゆうさんの娘御てえ女《ひと》が出て来るのを待ってきましたが、するてえと、この深川の古石場で、男やもめの御家人が病死をして、あとには、若い娘がひとり残って困っていると聞き込みました。
 その方の名が相良寛十郎てえのですから、てっきり、おゆうさんの死後姿をくらましている良人の相良寛十郎さんに相違ねえ。ことに娘をひとりつれてい
前へ 次へ
全276ページ中192ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 不忘 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング