でもどうかすると肉体的に惹《ひ》かれる磯五であったが、そうやって愚にもつかないことをいい立てている女性的な彼には、多分の反撥《はんぱつ》と軽蔑《けいべつ》を感ずるのだ。
 お高はいまもそれを感じて、さっきの一時の動揺からすっかりさめていた。そして、磯五がそれに気がつかなくてよかったと思った。磯五は、まだ同じことをいっていた。
「おしんはいま、おれんとこへお針頭に住み込んでいるのだ」
「そうですか。それは結構でございますねえ」
 磯五はそれから、若松屋惣七のことをきいたり、おせい様のことを話したりしながら、お高といっしょに道路《みち》のほうへ歩き出した。
「やはりおせい様からお金をしぼって、うまく立ちまわっておいでなのでしょうねえ」
 お高が、いった。磯五は、ちょっとむっと[#「むっと」に傍点]したふうだったが、すぐ白《しら》じらと笑い消した。
「そうよ。だが、ただ奪っているわけではねえのだ。ちゃんとお返しがしてあるのだ」
「お返しとはどういうお返しなんでしょう。いつからそんな律儀《りちぎ》なお前様になったのでしょうねえ」
「なに、昔からだ」
 それでお高に、磯五のいうお返しの意味がわかった。お高は、金が眼当てで後家さんをよろこばせている磯五によりも、そんなことを、かつてはいっしょにいたじぶんにしゃあしゃあとしていえる彼の恥知らず加減にあらためておどろきを大きくした。が、ざっくばらんにいえば、それは真実《ほんと》のことなので、お高は、ぞくっと寒けのようなものを感じながら、無言でいた。路《みち》へ出ると、磯五は、さっさとお高を離れかけた。
「おせい様に話して、おめえのいるところへ迎えにやらせよう。九老僧の庄之助てえのはおせい様の小作だから、そこに休んでいるがいいのだ」
 そこにいるとはいえないし、おせい様に会いたくないので、お高がおせい様に、知らせてくれるな、自分はいますぐ江戸へ帰るのだからと、頼むようにいっていると、磯五は、それを聞かずに、どんどん雑賀屋の寮のほうへ消えてしまっていた。

      五

 お高は、おせい様に見つかってはたまらないと思ったので、庄之助さんの家へ帰り次第、もう国平も起きたことであろうから、すぐ小石川へ発《た》とうとがむしゃらに道をいそいでいた。道はそれでいいのだったが、近みちをして来てもかなりあったところを、今度は本街道をゆくので、思い
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