お高はまるで森の奥へ迷いこんだような恰好になってしまった。日光が白く降り注いで、かすかな風が渡ると、木の枝を離れて虫のむれが飛び立つのが見えた。
お高は、引っ返したかったけれど、引っ返すよりは先へ行ったほうが早く街道筋へ出られるであろうと思って、そのまま進んで行った。お高は、蛇《へび》が出てきはしないかと思ってこわかった。人の気がないので裾をかかげて、ぬかるみを拾うようすで草を分けていた。白いふくらはぎが、青い葉のあいだをちらちら動いていた。
小川へ出た。冷たそうな水が、ゆるく流れているのだ。向こう側は、いっそうたけの高い藪原になって、驚くほど大きな蠅《はえ》が飛んでいた。その羽音が耳に聞こえる全部で、静かな地点であった。お高はいつまでもそこにいたかったが、その寂然《じゃくねん》としているのがかえって恐ろしくなって、いそいで、そこにかけてある独木橋《まるきばし》を渡りかけた。
それは、立ち木の朽《く》ちたのを投げ渡しただけのあぶないものであった。お高は、踏みためしてもみずにその一本ばしを渡りかけたので、真ん中でぐらぐらし出して、あとへも先へも行けないことになった。お高は夢中であった。安定をとるために腰を下げて、両腕をひろげて、右左にふらふらしていた。聞こえないまでも人を呼ぼうかと思ったが、大声を出すとバランスがくずれそうなので。どうすることもできないのだ。水の上は風があって、それが着物の前を吹きひらいて脚《あし》が出ているのを知っていたが、直そうとする拍子に落ちるような気がして、お高は風のするままに脚をあらわして泣き出したい心で立ちつくしていた。
橋のむこう岸に人影がさしたので、お高は、はっとした。あぶな絵のようなありさまの自分だから、それが男でなくて女であってくれればいいと思ったが、男であった。磯五であった。磯五は、そこの橋の上に立ち往生をして下から吹き上げる風のために面白いけしきになっている女を、お高とは知らずにゆっくりと見物しはじめたが、やがて気がついて驚いた声を放った。
「高音じゃアないか。何をそこで珍妙な芸当をしているのだ」
四
お高のことをもとの名の高音と呼ぶのは、磯五だけであった。お高は、磯五にあったのはいやであったが、いやでも、助けてもらわなければならなかった。磯五は、笑いながら向こう側から渡って来て、すぐお高の手を引いて助
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