したよ。馬に蹴られそうになった子供を助けて、女が気を失っているというから人をわけて来てみたら、お前さまだったのです」
「理窟《りくつ》ではできることではない」一空さまが、うけ取った。
「えらかったな、お高さん」
一空さまは、お高を誇って、ほそい眼をかがやかしているのだ。お高は、この坊さまは、世の中にたった一人のじぶんの親身なのだと思い出して、できることなら、いきなり取りすがって泣き出したかった。
金剛寺門前町には、まだ人出が引いていなかった。が、それは、一段落ついたあとのしずかさに、あった。近所の人々が、騒ぎのあとを見て歩いたり、いつまでも立ち話をつづけていたりして、なかなか家へはいらないのだった。
和泉屋の前は、引き出された商品のこわれが、こなごなに踏みつぶされて、足のやり場もないほど散らばっていた。おもての雨戸はすっかり破られて、家内《なか》も、空家《あきや》のようになっていた。ところどころ壁まで落ちて、まるで半倒壊のありさまだった。
お高は、滝蔵に助けられて、そこを歩いて行った。一空さまは、門前町の端まで送って来て、そこで別れて、洗耳房へ帰って行った。白い月光の中に、通行人をあらためる町役人の集団《かたまり》が、黒かった。提燈の灯が、かどかどに揺れうごいていた。
五
どこも、怪我をしてはいなかった。が、興奮のあとの疲労が、お高を病気のようにした。若松屋惣七がいろいろ心配をして、お高は、居間に床をとって寝かされていた。若松屋惣七は、じぶんで看病もした。
午《ひる》下がりに、一空さまが、見舞いの菓子折りなどをぶらさげて、たずねて来た。前の晩と同じに、お高を自慢するように、眼を光らせていた。お高は、床の上に起き直って、いつものさびしいところの見える微笑で、一空さまを迎えた。
一空さまは、お高の英雄的行動をすっかり聞かされて来て、はいってくるなり、お高をほめちぎった。お高は、そのことをいわれるのが、くすぐったかった。話題をかえて、ゆうべはぐれ[#「はぐれ」に傍点]てからの、一空さまのことをきいてみた。
「まあ、離れて見物しておった。面白かった」
一空さまは、そう冷々淡々と答えて笑った。が、すぐ真顔にかえって、つづけた。
「そんなことより、きょうはちと話したいことがあって来たのじゃ」
お高の熱心な視線が、一空さまの顔に凝った。お高は、一
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