きには、喧嘩支度で隊を組んで出かける。なかには、水さかずきをして行く。それほどでもないが、とにかくにらみ合って来た。
その敵方の鷹匠町に、ひとりとほうもなく勇敢なのがいて、これにだけは、門前町のあぶれ者も手を焼いていた。それが、湯屋の三助をしている勘であった。その勘が、いま和泉屋の屋根から瓦をほうっているというのだ。
瓦は、続々投げられている。すきをねらって、通りへ駈け出そうとするものも、ためらっているのだ。お高は、勘はきっと、和泉屋に頼まれたわけではないのであろう。こっそり群集にまぎれこんでいたのが、いつもの意趣晴らしに、和泉屋の屋根へあがって、ああいうことをしているに相違ない。
それにしても、この騒動とは何の関係もない他町の者が、ひどいことをすると、お高は思った。そして、こうして死人が出るほどの挑戦をされた以上、門前町の人も、黙ってはいまい。勘がただで済まないのはもちろん、ことによると、大挙して鷹匠町へ押し寄せるようなことになるかもしれない。
金剛寺のほとりに住むもののひとりとして、お高がひそかに義憤を発しながら、一方、いつ若松屋へ帰れることであろうと、いよいよ不安の念をふかめていると、群集の中から、すさまじい歓声が生まれた。
四
屋上に仁王立ちになって、まだ瓦を投げおろしていた勘が、ふいと足でもすべらしたものか、その瓦の一つのように、ずずずと屋根をなでて、地ひびきをたてて往来の真ん中へ落ちてきたのだ。そのまま起きあがらないから、腰でも抜かしたのだろうと人々が走り寄ってみると、みなびっくりしてしまった。勘は、右の肩から胸まで一|太刀《たち》に斬り下げられて死んでいた。
それにしても、いつ誰がどこから上がって行って斬ったのかだれにもわからなかった。一同はわいわい立ち騒いで和泉屋のことよりも、勘の一件が、問題の中心になってしまった。
さっきの若い武士は、いつのまにかお高のとなりへ帰って来ていた。不愉快そうな、むずかしい顔になっているのが、糸屋のもれ灯で見えた。黙って羽織の袖をとおして、仲間のそろえた履物を突っかけると、群集が、路《みち》のまん中の勘の死骸《しがい》をとりまいているので、周囲のほうは稀薄《きはく》になりつつある、そのまばらなところを縫って、ずんずん行ってしまった。主従とも終始無言で、ことにさむらいは、きたないものでも見たよ
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