産のために、自分の一生が決定されたと妙な答えをするのだ。
「もしさような金持ちでなかったら、おゆうさんは、わしの女房になったところじゃ」
 わけがわからないので、お高が黙っていると、一空さまはひとりで、良人《おっと》の相良寛十郎にも娘のお高にも、おゆうが財産を遺していないというのが不審だと、しきりにいいつづけている。おゆうにほかに子供があったのではないかとさえ、きくのだ。お高は、すっかりその話に飽きてしまっていた。自分には兄弟も姉妹もないし、母に隠し児《ご》があったなどとは、想像もできない。聞いたこともない。そう答えると、
「おゆうさんは、あんたの幾つのおりになくなられたかな」
「あたくしを生みなすって八月目に、おなくなりなすったのだそうでございます」
「不思議じゃ。あの大財産はどこへ行ったのじゃ。高価な香炉は、どうなったであろう。誰が継いでおるのか」
「聞いたこともありませんでございます」
「それが、不思議じゃ。じつに、異なことじやわい」
 それきり、ふたりとも黙りこんでゆくと、金剛寺門前町をすこし楼門《さんもん》へ寄ったところに、大きな店のあるのに気がついた。それが、新たにできた、問題の万屋であった。
 和泉屋《いずみや》という金看板が、風にきしんで、鳴っていた。
「あれじゃ。割りこんで参って、この騒動を起こしたのは」
 一空さまが、指さした。

      五

 和泉屋は、間口の広い、立派な店である。米、味噌、醤油、酒、油、反物、筆墨、小間物、菓子、瀬戸物、履物類その他日用品一切が、きちんとならんでいる。そこらに売っているものは、何でもある。しかも、体裁がよく、品質もまさってるのだ。そのほか他店よりも値段がやすい。
 それで客のはいらないわけはないのだが、店には大勢の番頭小僧のほか、客といってはひとつの人かげもない。品物と店員だけで、がらんとしてるのだ。買い手どころか、近よる人さえないのだ。手持ちぶさたに見える。襲撃に備えて、出入りの鳶《とび》の者などがそれとなく店の周囲を固めていた。
「何とも、奇妙な話じゃ」
 一空さまが、つぶやいていた。それは、お高の母のことのようでもあり、またこの和泉屋のことのようでもあった。
「何がそんなに奇妙なのでございましょう」
 お高がきくと、
「いや、あんたは、何も知らんようだが、この和泉屋というよろず屋は、江戸中に三十何軒
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