がいい。おれのからだがうごく限り、おめえひとりぐれえ食わせられねえこたあねえ。
こんなことを続けていちゃあろくなことはねえぞ。そのうちにいい働き口でもみつけるまで、まあ、ぶらぶらしているがいいや。下女奉公が一ばんだ。な、いい家を探すのだ。きれいな家に、うまい物を食って、のんきにからだを動かしていせえすりゃあ、つとまってゆくところがあるめえものでもねえ。行儀見習いてえことも、おなごは忘れてならねえのだから――」
お駒ちゃんは、あたまをうしろへほうり投げるようなしぐさをして、はっきりした声だ。
「お父つぁん、いまよすわけにはゆかないんだよ。心配しないでおくれよ。大丈夫だからさ」
「何をいやあがる」久助は、高びしゃに「おめえよりおれのほうが、ものの分別があろうてえもんだ」
「それあそうだけれど、あたしだって、自分のことはじぶんでやってゆけるつもりだよ。これでも、今までさんざん苦労をしたんだからねえ。やっとここまできたんだから、こころもちはありがたいけれど、よけいな口出しをしないでおくれよ。さっきから何度もいうとおり、べつに悪いことをしてるわけじゃあないんだから――」
「そんならなぜ、今夜おせい様んところでおれの顔を見たとき、あんなに、気を失いそうにおどろいたのだ」
「思いがけなかったからさ」
「江戸は広いようでも、今夜のように、いつどこで誰に会わねえもんでもねえ。おめえは、あの磯屋の旦那と、ほかの家《うち》へもああしていっしょに行くのかい」
「いいえ、おせい様んとこほか、どこへも行きはしないよ。だから、お前さえ知らん顔していれば、それですむことじゃあないか。あたしもあんまりお前に会わないようにするしねえ――」
「会わねえということができるものか。おせい様んとこにいる限り、おれは、いやでも応でも、磯屋の妹になりすましてるおめえを、見ねえわけにあいかねえ。それがおれにあつれえのだ。磯屋さんは、近えうちに、おせい様と夫婦になるというこった。今夜なんかも、まるで御主人様のように、いろんなことをいっていなすったよ。
その磯屋さんの妹さんてえのだから、おめえも、おっつけおれの御主筋に当たってくる。てえっ、使う身と、使われる身と、親と娘と、それがそう、何もかもめちゃめちゃになっちゃあ、世の中のきまりてえものはどこにあるのだ。人間はみんな、身分を守ってゆけあ、間違えはねえ。な、お駒
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