人役としての小さな自慢であった。磯五もそれにほほえみ返していた。
お駒ちゃんだけが無言をつづけていた。いったいお駒ちゃんは、磯五とおせい様がいるところでは、いつもあんまり口をきかないのだ。つんとして黙っているか、しょんぼりほかのことを考えてるのだ。おせい様のようないい生活を知っている人のまえへ出ると、お駒ちゃんはひけ目を感じて、ただぼろ[#「ぼろ」に傍点]を出さないように気をつけるだけが精いっぱいなのである。それが、ときによって、お駒ちゃんをいじらしく見せていた。
が今夜はそれとも違う。お駒ちゃんはやっぱり気持ちの悪そうな顔をして、黙りこんでいるのだ。
へんに思って、それとなく磯五が注意していると、お駒ちゃんはときどき眼を上げて久助を見るのだが、その視線が異様なのである。久助が銚子を持ってお駒ちゃんの前へ出て、
「一つお重ねなさいまし」
というと、お駒ちゃんは妙にびっくりして、恐ろしいような、苦いような顔つきをした。よっぽどどうかしている。つれて来なければよかったと磯五は思った。
膳が引かれると、おせい様とお駒ちゃんは顔を直しにほかの部屋へ出ていった。磯五はやかましいことをいって特別に入れさせているおせい様の煙草《たばこ》から、一服借りて、ゆたかなけむりを吐いていた。その、色のいい気体の行方をぼんやり眼で追っていた。煙は、光線《ひかり》の届いているところでは紫に見えるし、天井へ近づくと白く見える。
磯五はそれをひどく不思議なことのように思って、吹いてはながめ、吹いてはながめ、同じことをくり返していた。すこし酔っていた。
久助がはいって来て、残りの物を持ってさがって行こうとした。磯五が呼びとめた。
「おとっつぁんはいい腕だね。名は何というのかね」
「久助と申します」
「お、そうそう。久助、久助。そこで久助、おせい様から話してあるだろうと思うが、おれはおせい様と近いうちにいっしょになることになっている。まあ、主人同様にしてもらおう」
鷹揚《おうよう》にそって、磯五は久助を見た。おせい様の家のものなら、猫とでも仲よくしておいていいのだ。ことにこの久助というおやじは、見たところ一癖ありそうなやつだから、こうして探りを入れて、味方にしておく必要があると思った。はじめから主人同様といい渡しておけば、どんな勝手なことでもできて、都合がいいのだ。久助は、そういう磯五
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