うつくしい奥様がおありでございますよ」
「まあ! あきれかえった――」
何かわめき出しそうにするお駒ちゃんを、磯五は、いそいで部屋のそとへ押し出すようにした。
「お前は、気がたかぶっておる。部屋へ行って、やすみなさい」
そして、泣き声をもらすまいとしてくちびるをかんだお駒ちゃんが、廊下を立ち去って行くのを見すましてから、磯五は、むずかしい顔をして、おしんの待っている居間へ引っかえした。おしんは、あっけにとられて、磯五の顔を見あげていた。
磯五は、しずかにいった。
「妹のお駒なのだが、どうも逆上《のぼせ》気味で困ります」
六
「はい。これは、いらっしゃい」磯五は、あらためて、おしんに挨拶をはじめた。
「なるほど、おしんだ。いやよくおぼえております。おしんという人が、お針頭に来てくれるということを聞いたときは、お前さんとは気がつかなかったが、こうして顔を見て、名乗られてみると、いかにもおしんさんだ。いやなに、高音のことで、いまちょっとごたごたがありましてな、お恥ずかしい次第だが、弱っております。何か気に入らんことがあって、高音が家を出たのです」
「まあ、道理で、久しぶりでお眼にかかったのに、高音さまが、旦那様のことをおっしゃらないので、妙だと思っておりましたが、そういうわけでございますか」
「何でも、じぶんの好きなように暮らすのだとかいいましてな、ただいま別居していますよ」
「それはそれは、お困りでございましょうねえ。あんなおとなしい高音様が、どうしてそんなお気になったのでございましょう。でも、おっつけ人でも立ててお帰りになることでございましょうよ」
「そう思って、待っているのだが、まあ、それはそれとして、用のはなしにかかりましょう」
仕事や給料のとりきめをしながら、磯五はあわただしく考えていた。
このおしんが、昔のじぶんを知っている以上、そしてまた、高音に会ったりしているのだから、この女を放しておいて、勝手にしゃべらせるのは、じぶんにとって危険でないことはない。しかし、いまいった高音の家出のつくり話を、おしんは信じるであろうか。ふたたび高音にあうことがあるであろうか。じぶんから、好奇心をもって、高音を探したりすることはないであろうか。
磯五は、いろいろに考えたすえ、こういう女は、手もとにおいて、しじゅう限を届かせてにらんでいるにかぎると思っ
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