とのように、龍造寺主計が、壁ぎわから声を持った。龍造寺主計は、じれったそうに、舌打ちをするのだ。
「ちっ。のんきだな。聞いていれば、この若松屋を、ひと手に渡そうという、最後の場合ではないか。よほどこみ入った事情があるらしいことは、わたしにもわかるが、もうすこし、何とかして踏みこたえてみる気はないのかな。惜しい」
 若松屋惣七の顔は、見るみる冷笑がひろがった。武士に、何がわかる。さむらいというものは、人を斬り殺すことを考えるか、もったいぶって見せかけて、それで、ただで衣食することを考えるか、していればいいのだ。
 草のように蒼い若松屋惣七の顔が、龍造寺主計の声のしたほうを、さがした。儀礼と嘲笑《ちょうしょう》だけを、含んだ声だ。
「御厚志は、かたじけない」若松屋惣七は、武士《さむらい》に対すると、いつのまにか、前身が出るのだ。口のきき方まで、武家出らしく、角張ってくるのだ。そうでなくても、不愉快なことがあると、いつもいかつい口調になる。それが今は、武士に対して不愉快なのだから、二重に不愛想なのだ。にべ[#「にべ」に傍点]もなく、いった。
「知らぬことには、口出しをなさらぬがいい」
 お高は、はっとして、龍造寺主計をふり向いた。が、お高の心配は、むだであった。
 龍造寺主計は、剣術の稽古《けいこ》か何かに、思いきり気もちよく一本やられたときのように、かえってうれしそうに、にこにこしていた。
「眼が不自由であろう。お困りだな」
「大きにお世話です」
「あんたは、正直な人物だ。顔で、わかる」
「ふん」若松屋惣七は、お高を返り見た。「投げ出す気になったら、それこそ、正直なものだな。急にせいせいしたよ」

      二

 お高は、にわかに思いついたことがあるらしく、その、若松屋惣七のことばには答えずに、くるりと、壁の龍造寺主計へ、膝を向けた。
「わたくしから、すっかり申し上げますでございます」
 必死の色だ。若松屋惣七が、
「お高、ゆきずりの客人に、よけいなことを話すまいぞ」
 と、声を高めたのも、耳へはいらないのか、はいっても、無視したのか、お高は、なみだに濡れて異様にきらめく眼で、龍造寺主計をみつめて、いい出していた。
「じつは、あの磯五というお人が――」
 龍造寺主計がさえぎった。
「その磯五だが、磯五は、あんたの何かではないのかな。どうも、全然かかわりのない仲とは思
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