く抗《あらが》った。
「いえ。もうよろしいのでございます」
 が、龍造寺主計に手をとられて、せきたてられてみると、もともと自分のことなので、また衣かけの松のほうへ引っかえして、龍造寺主計を案内しないわけにはゆかなかった。一空和尚も、ついて来た。お高は、磯五はもういないだろうと思った。いてくれなければいいと願った。
 衣かけの松の見えるところまで来ると、お高は、立ちどまった。羽織を着直した磯五が、ぶらぶらこっちへ歩いてくるところであった。
「あれか」
「はい。あの人が、磯屋五兵衛さまでございます」
「ふうむ。あれが、な」
 龍造寺主計は、感心したように、うめくようにいった。そして、ぼんやりお高の手を放して、足早に、磯五に近づいて行った。ぴたりと、磯五の前にとまった。
 磯五は、ちょっと驚いたようだったが、平気で、龍造寺主計をみつめていた。龍造寺主計は、左手ですこし刀を押し出して、口をまげて、お高をかえり見た。それから、また、じっと磯五を見すえた。
「化けおったな、こいつ」
 磯五は、顔いろひとつ変えなかった。お高のほうが驚倒した。お高は、龍造寺主計の腰にある刀が、今にも走り出そうな気がして、とっさに何もかも忘れて、ふたりのあいだへ割り込もうとした。
 一空和尚が、にこにこ笑って、抱きとめた。
 龍造寺主計が、声だけお高のほうへ向けた。
「会うたぞ。この男なのだ、さがしているのは。もう、若松屋に頼むことはない」



    寒雨《かんう》


      一

 自分を忘れたお高だ。また、ふたりのあいだへ割り込もうとした。名のみの良人であるばかりか、いまは敵となっている磯屋五兵衛だ。が、この磯五の急場にあたって、お高のこころに残っている愛の破片が、お高をじっとさせておかなかったのだ。お高は、一空和尚の腕をふりほどいた。磯五をかばうように、龍造寺主計の眼下に立った。
 龍造寺主計《りゅうぞうじかずえ》は、はや鯉口《こいぐち》を押しひろげて、いまにも右手が、柄《つか》へ走りそうに見えるのだ。
「何ごとか存じませんでございますけれど」お高は、うわずった声だ。「ここは、御門内でございますよ。さっき御制札がございましたよねえ。何とございましたかしら。御門内にて、とんぼ獲ることならんぞよ――」
 笑おうとした。笑えなかった。お高を見おろしている龍造寺主計の眼が、笑った。
「うむ。
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