っちへ来な」
磯五の顔が急に動物的にゆがんできた。お高は、磯五が何を考えているのかわかった。ふと磯五に惹《ひ》かれるものが、お高の身内にちらとひらめいた。それは、忘れていた磯五であった。お高は、たぐり寄せられるように、磯五のほうへ引っ返しかけた。そこへ強い風が吹いたので、お高は、風に押されて、ころがるように、よろよろと意外に磯五の近くまで来てしまった。
磯五は衣かけの松をくぐって、むこう側へ出ていた。そこは、樹《き》にかこまれて、どこからも見えないところであった。磯五は羽織を脱いで、ふわりと草の上にひろげていた。
四
それを見ると、お高は、はっとした。いそいで磯五に背中を向けて、風にさからって走り出した。うしろで何かいう磯五の声がしていた。ばらばらと衣かけの松を離れて、追っかけてくる気はいであった。お高は、口をあけて風をのんで、駈《か》けつづけた。夢中であった。
樹のあいだを縫って逃げるので、いきなり眼のまえにあらわれる立ち木を、すばやくかわすのが大変であった。お高がその樹々のあいだをすり抜けるときは、踊りの手ぶりのように見えた。すぐうしろに、磯五のあし音が迫ってきているような気がした。何度も、声をあげようかと思った。
実朝公の碑のまえから、もと来た参詣みちへころび出たところで、お高は精がつきて、地面へくずれようとした。話しながら通りかかっていた二人づれがあった。左右から手を伸ばして、お高をささえてくれた。
「ほう。お前は、さっきの若松屋の人ではないか。こんなところを駈けまわって、何をしているのです」
龍造寺主計が、面白そうにいった。ひとりは、龍造寺主計で、もう一人は、一空和尚であった。一空和尚は、まるい顔に、仕つけ糸のような細い眼を笑わせていた。でっぷりしたからだを、つんつるてんの衣で包んでる。
いつも若者のように元気な老僧だ。まっ赤な顔をして、笑ってばかりいるのだ。馬鹿みたいだが、たいへんに悟りをひらいた坊さまだということだ。ころもの袖《そで》をほらほらとゆすぶって、大きな口を空へむけて、笑った。
「兎《うさぎ》狩りでも思いつかれたかな」
そして、手をあげて、すこし離れた箇所《かしょ》を指さした。そこには、風雨にさらされて字の読めなくなった禁札が建っていた。御門内にてとんぼ獲《と》ることならんぞよ、と大きく書かれてあった。
「あれ
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