は、その女に見覚えがあった。
それは、あの、式部小路の磯屋のまえの空地《あきち》で磯五と立ち話しているところを、お高が、板囲いのあいだから隙見したことのある、女歌舞伎の太夫上がりのような、大柄な美しい女であった。磯五の妹に化けることを、お高が拒絶したので、磯五は、お高のかわりに、このお駒を妹に仕立てて来たに相違ないのである。
初対面のあいさつをしている。蛇《へび》の膚を聯想《れんそう》させるなめらかな磯五の声がしていた。
「きょうは、このお駒にもお近づきを願いかたがた、本人の口からお礼を申させようと思いましてね、急に思い立って、やって参りましたよ」
「御丁寧に、まあ、ほんとに、五兵衛さんのお妹さんだけあってお駒さんは、お美しいお方でいらっしゃいますこと」
「いつも兄をはじめ、商売のほうまで、いろいろと御厄介になりまして、ありがとうございます。それに、近いうちに、おめでたがございますそうで――」
磯五に劣らない、したたか者らしい声音である。おせい様は、おめでたといわれて、もじもじ磯五のほうを見て笑った。
「兄様が、せっかく親切にいってくださるものでございますから、こんなお婆《ばあ》さんも、そんな気になりましてねえ――それはそうと、あれほど大きなお店を、しめくくっていらっしゃるのは、なみたいていのことではございませんでしょうねえ」
「いいえ、わたくしなんど、ほんとに何もできませんのでございますけれど、さいわい兄が万事に眼を届かせてくれますので、どうやら――」
お駒は、一にも二にも磯五を兄々と立てて、すっかりその妹になりすましている。
ふと、おせい様は、気がついて、座敷のなかを見まわした。
「おや、高音さまとやらおっしゃる、お従妹さんがおいでになっているのでございます。つい今しがたまで、ここにすわっておいででございましたよ。はて、どこへいらしったのでございましょう」
お高は、思いきって、つぎの間から出て行った。じろりとすばやく、磯五をにらんだ。
「こちらで、お掛け物を拝見しておりましたのでございますよ」
磯五の顔を、蒼いおどろきと、怒りが、走りすぎた。が、声は、思いがけないところで、従妹にあったという、愉快な、意外さを示して、ほがらかにひびいた。
「おお、これは、高音か。相変わらず、どこへでも出かけてくるようだな」
「はい。用さえあれば、どこへでも出かけて、
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