で、不思議そうに、一角を見つめた。
「ううい、どうしろというのだ。」
「じつにどうも、度しがたいお人ですな。吉良殿を護るために、赤浪ばらの策動を突きとめていただきたい。これは、付け人として当然の任務ですぞ。」
「大丈夫。攻めてなんぞ来はせんよ。また、来たら来たで、その時のことだ、あわてるな、狼狽《あわ》てるな。」
「何をいわれる! 隠密の役目は、あらかじめ――。」
「隠密? この、おれが、か?」
「さよう。」
「間者だな。」
「さようっ!」
「密偵だな、早くいえば。」
「くどいっ!」
「犬じゃな、つまり――犬、猫、それから、男妾には、なりとうないと思っておったが――。」
「何をいわれる。誰が兄貴を、男めかけにする女《もの》があります。」一角は、とうとう笑い出して、「犬、猫などと、見下げたようなことをおっしゃるが、兄貴は、それこそ犬、猫のごとくに――。」
狂太郎は、眼をしょぼしょぼさせて、
「まあ、それをいうな。」
「いや、いいます。あまりだからいうのです。まるで犬、猫のように、雨露をしのぐ場所もなく、尾羽《おは》うち枯らして放浪しておられた――。」
「今だって、尾羽うち枯らしておらん
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