みかねやす》、左文字大銘《ひだりもじだいめい》に切ってござろうな。左陸奥守――いたって吉相。常用差しつかえござらぬ。(つぎの刀を受け取って)うむ、虎徹《こてつ》が出ましたな。これも善相。いや、ちょっとお待ちを――ふうむ、少々|相《すがた》が荒びておりますな。めったに鞘走《さやばし》りいたしませぬように、ちと御用心を。
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つぎつぎに刀を観《み》ていく。一同は帯刀を下げて、交《かわ》る代《がわ》る起って奎堂の前へ行き、相を受けては座に帰る。いつの間にか人々の背ろに、税所郁之進が来て坐っている。それと見て、加世は播磨守のかげに身をすくめる。
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奎堂 これは佐々木一峰の作とお見受けいたす。吉凶あいなかば――次ぎ。筑前利次ですな。素直な相でござる。つぎ――守正でしょうか、安永でしょうかな。可も不可もなし。おつぎは――金道の二代目あたりと観ますが、これはいささか凶相を帯びております。お差料には御遠慮あったほうが、お身のおため――。
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そのたびに、喜ぶ者、頭を掻くもの。笑声、讃嘆の声々湧き、播磨守をはじめ一座ことごとく感じ入る。
正面の庭に、月が昇る。
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末座の一人 (左右を見廻して笑う)後は、この顔触れでは、あまり名刀も出ないようですな。一人ずつ奎堂先生をわずらわすほどのこともありますまい。それでは先生も大変だ。どうです、おあとはこみ[#「こみ」に傍点]にして願っては。
その隣 さようさ。そうすれば、女難の相なぞ現れた場合に、誰のかわからぬから顔を赤らめずにすむというもの。名案名案。
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一同笑い崩れる中に、言いだした侍が起って、残りの十人ほどの帯刀を一しょに集めて、ひとかかえ奎堂の前へ置く。まるで刀屋ですな、などという声がする。
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奎堂 (その一本一本を抜いては手早く観相して)これは吉。これも吉。これは半吉。これはどうも凶ですな。が、むろん。たいした悪相ではござらぬから、けっしてお気にかけぬように――これは吉凶半々。これは大吉です。失礼ながら作はあまりよくはないが、刀相としては大福なので。
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