って雑貨商でもはじめて、多分、ハルビンに落ち着くことになるだろう。
禹徳淳 (考えたのち笑い出して)ははははは、おれにまで、ははははは、おれにまでそんな用心をしなくてもいい。
安重根 まったく、考えてみると、お互い下らないことに向気《むき》になってたもんさ。こうして外国に出て不自由をしながら、国事だとか言ってみたって始まらないからねえ。同じ苦労するなら、女房や子供を呼んで、すこしでもうまい飯を食わせるように苦労してみる気になったよ――。(笑う)
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間が続く、禹徳淳は沈思している。急に憤然と椅子を起つ。
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禹徳淳 安君――。
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奥に大きな話し声とともに正面のドアがあいて、楊子をくわえた張首明が出て来る。立っている禹徳淳を見て驚く。
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張首明 おや、お帰りですか。
禹徳淳 (狼狽して)急な用事を思い出したんです。後で来ます。
張首明 そうですか。どうもすみません。お急ぎじゃないと思って、ちょっと飯をやってたもんだから――。

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