いないようだが、僕がきいて見ようか。ねえ君。あの第三回目の事件の時、里村が林田の指令をうけて初江に怪しい電話をかけたろう。この電話の内容は初江が死んでしまつている限り、林田以外の人には何も知れていないわけだ。ところが林田はあの事件の直後、千代の電話の内容を正直に云つてるが何故だろうね。もつと何とでも外のでたらめが云えたわけじやないか」
「うん成程。林田はあの際、正直にいうことが一番利益だと信じてたのじやないかな」
「そうだ。そこだよ。林田は当局にできるだけうそをいわずに事を運んでいる。これが彼のずるい所さ」
それから約二十分程われわれは雑談を交して久し振りでのんびりと休息すべく尾張町で袂を別つたのである。この時藤枝は云つた。
「稀代の犯人が世に実在するね。探偵小説の悪人がえらすぎると云つたあの言葉は取り消した方がいいかも知れんね」
私が答えた。
「いや、その必要はあるまい。結局わが藤枝真太郎の上に出ないということが判つたよ」
× × ×
さて、長々とつづいて来たこの物語もこの辺で読者とお別れしなくてはならなくなつた。
ただこの日以後の事をいささか
前へ
次へ
全566ページ中561ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング