秋川一家族の、あのいかにも複雑した暗い状態なのだ。
「ひろ子の語るところによれば秋川駿三が無名の脅迫状を受け取つたのは昨年の八月だつた、というが、(ひろ子の話第二回参照)それはひろ子がそれを発見したのがその頃だということを示すにすぎない。だから僕は、もつとそれ以前から千代があの脅迫状を送つていたと考えていいと思う。千代は昨日からの調査によると一昨年夫に死に別れて貧困になげこまれて苦しんでおり、娘がタイピストに出たのも一昨年だというから、少くも昨年のはじめにはもうあの三角印の封筒が駿三宛に送られたと思つていいだろう。
「駿三には千代の遺書にある通り過去がある。彼はこの脅迫状を度々受けとつてどうしたか。警察に訴え出る気にはなれなかつた。それをするにはたとえ時効にかかつているとは云え、浅ましい過去の犯罪――しかも姦通といういまわしい犯罪を云わなければならないのだ。そこで彼はどうしたか。最初のうちこそ一人で悶々としていたかも知れないが、ついに思い余つてこれを世界中でたつた一人の人間につげた。おそらく彼は万事をその男に自白してしまつたのだろうと思う。そうしてその男の助けを求めたのだ。その一人とい
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