門から玄関まで、ちよつと半町ほどあるけれども、その門にはいるのは目についていけないと思つたのである。
5
私は、門の前に車をとめて、そこでひろ子をおろし、彼女が無事に玄関につくまでじつと見ていたが、別に何事もなく、玄関でひろ子はベルをおすと同時に、こつちを向いて、につこりしながら腰をかがめたので、私も先ず安心と、すぐにまた銀座に車を走らせた。
事務所に着いて見ると、藤枝は室中《へやじゆう》を煙にしてじつと椅子に腰かけて待つていた。
「やあ、わりに早かつたね。ご苦労様。おかげでひろ子嬢も安心だつたろう」
「なかなか立派な家だよ、なるほど今どきあんなすばらしい家をもつてちや、おどかされるのも無理はないよ」
私は、彼の前に腰をおろしながら云つた。
「そりやそうと、さつき君が受けていた電話は何だいありや? 何か僕をからかつてでも来たのかい」
「うん、そうなんだ。男だか女だかよく判らないが、ちよつときくと女の声らしい。秋川家の事なんかに手を出すなと云うんだよ」
「そんな事だと思つたよ。馬鹿にしてやがる。しかし事件が面白くなつて来たね。この手紙の来かたが少し早すぎたよ、僕はも
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