りませぬ。心の中ではさぞ悩んだことと思いますけれど。……つまり父は一方に妻以外の人との間につくつたさだ子を育て、一方には罪亡ぼしとして伊達さんを育てていたのです。そうして、この二人を結婚させることによつて父は自分の過去をつぐなおうとしたに相違ないのです」
「成程。……」
「しかしこれは父一個の理想でございました。一人で描いた勝手なプランだつたのです。事実はそううまくはまいりませんでした。父の過去はそんな勝手な方法では清算されなかつたのでございます」
 私はひろ子が、そのようすにふさわしくない清算[#「清算」に傍点]という言葉を口に出したのでいささか意外に感じた。
「成程、そうですか。……ではどうしてその方法で清算しきれなかつたのでしよう」
「伊達さんが自分の過去を知つたからです。何かの方法か、機会によつて過去の秘密を知つたのです」
「ひろ子さん」
 と藤枝がちよつと間をおいて云つた。
「あなた、伊達君が誰かを通じてそれをきいた、とは思いませんか」
「さあ――」
 ひろ子は困つた顔をしたが、
「別に思い当る人もございません」
 二人ともしばらく沈黙してしまつた。
 藤枝は新しいシガレット
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