しておおきになつたら、よろしいでしよう。さてと」
 木沢氏は金側の懐中時計をとり出して、
「お父様も初江さんも大したことはないと思いますから、じや私は失礼します」
「おやそうですか、僕もちよつと用事があるんです。何、すぐ戻つて来ますよ」
 林田はこういいながら、木沢氏と一緒に玄関から出て行つた。
 初江はもうすつかり気もちがなおつたらしく、別に自分の居間にひきとつて休もうというようすもない。
 ひろ子が父のようすを見に応接間を出て行つた。室にはさだ子、初江、私の三人が残された。
「伊達君はまだ今日は見えませんか」
「はい、今朝からまた警察によばれているのでございますつて。まだ帰されないのでございます。私ほんとに心配で……」
「お察しします」
 こうは云つたものの、さて、それからなんと云つてこの人をなぐさめてやつてよいものか、私はいささか困惑してしまつた。
 初江も思いは同じと見え、多くを語らない。
 折よくこの時ひろ子が戻つて来た。
「さだ[#「さだ」に傍点]さん、伊達さんがいらしつてよ。早く行つておあげなさい」
「まあ、そう、ありがとう」
 さだ子はおちついて椅子から立ち上つたが、さ
前へ 次へ
全566ページ中312ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング