じや君、女同志だと何故ああいう風に腰かけるか、その理由を説明して貰いたいな」
私は藤枝がいつもの通り、何か吹きはじめるかと期待しながらこうきいたのである。
「いや、それは知らない。そんな事は、心理学者か生理学者にお任せするんだな。僕の商売はそこまで立ち入る必要がないんだよ、ただある事実を事実[#「事実」は底本では「実事」]として観察していればいいのさ。観察! そうだ観察だね、君だつてたびたび女がああ並んでかけているところを見てはいるんだが、そういう事実に気がついていないんだ」
「ドイル先生が、シャーロック・ホームズ氏にそんな事を盛んに吹かしているが、やつぱり実際上にも役に立つかね」
「立つこともあり、立たぬこともありさ。探偵小説の御利益は、ないとも云えるし大いにあるとも云えるね」
「じや、探偵小説なんてものは、実際、君みたいな探偵に役に立つ事があるんだね」
「作そのもの全体の御利益はまず疑わしい。しかし出てくる名探偵の片言隻語のうちには、なかなか味わうべきありがたい言葉があるよ」
彼はこういいながら、アップルパイをフォークでしきりとほおばりはじめた。
私は二週間ほど前、赤坂のある
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