が決定された。
 嵐の去つたあと数は減つたが、秋川家は、以前より決して不幸ではなくなつたのである。
 そこで私であるが――読者もすでに察せられるだろうけれど、実は私一人はいささか憂鬱ならざるを得ないのだ。
 大家の一令嬢としてのひろ子でさえ、ちよつとつり合えぬ私である。そのひろ子は今や数十万の巨富を擁する主人となつてしまつたではないか。
 私の心の奥にいつともなく湧いた恋心は、一たまりもなく打ち挫かれねばならぬ。
 私は彼女を、人生の一地点でクロスした美しき女性としてただ頭の中に残しておくつもりである。
 藤枝はこの事件の後、時々ぼんやり考えこんでいる私によくいうのであつた。
「そうくよくよするなよ。何が幸になり、何が不幸になるか、一寸さきはまつたくくらやみだ。また何か事件がきつと来るよ。美しいお嬢さんが持ちこんでね。そうして今度はあんなブルジョアでないのがね」と。



底本:「殺人鬼」HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOKS No. 195、早川書房
   1955年(昭和30)年4月30日初版発行
   1995年(平成 7)年9月30日3刷発行
初出:「名古屋新聞」
   1931年(昭和6年)4月〜12月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※誤植等の確認にあたっては、「殺人鬼 浜尾四郎全集第※[#ローマ数字2、1−13−22]巻」桃源社、「日本推理小説大系第4巻 大下宇陀児 浜尾四郎集」東都書房を参照した。
※仮名表記の揺れは、拗音、促音の小書き如何を含めて、底本通りにしました。
※句読点に傍点を付すか否かの不統一は、底本通りにしました。
※「里村千代子」と「里村千代」、「村井かよ子」と「村井かよ」の混在は、底本通りです。
入力:今泉るり
校正:はやしだかずこ
2005年9月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全142ページ中142ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング