三に伝わつた血統だ。もつとはつきり云えば山田家のいやな血統だ。山田信之助はあの宿命的な三角形を形造ることによつて非常な不幸を生んだ。駿三はその子である。青年時代に見込まれて秋川家に入つただけあつて彼は相当な手腕家となつた。一代にして巨富を積んだ。しかも彼はやはり山田家の不幸な血をうけていたのだ。それは何というか、いわば好色とでもいうか、ともかく異性との問題については父同様の弱者であつたという事である。彼はすでに述べた通り、伊達捷平の妻と不義を働くようになつた。しかもまもなく、また他の女との間にさだ子という娘を作つてしまつたのだ。僕は、最初、三人の娘の顔を見た時に、さだ子はことによると徳子の娘ではないのじやないかとちよつと感じた。この疑いは、初江とさだ子だけがたつた一つ違いだという点で一層はつきりするが、後にひろ子の話によつて全く明らかになつた」
「ねえ藤枝、一体さだ子の母親は誰だろう」
「さあ、それは判らない。芸者かも知れない。あるいは素人かも知れない。僕には全く見当がつかない。しかしこれを知る必要がないではないか。いずれにしても駿三の過去の秘密だ。彼がかくしおおせてこの世を去つたのだ。今さら用もないのにこれをあばく必要はあるまい。そこで駿三という男はまた大体こうした男だつたんだね。一言で云えば社会的には立派な一人前の男だつた。しかし家庭の人としては全く成つていなかつたんだ、といえる。
「さて、こういう駿三が陽気な家庭を作れないということは明らかなことだ。さだ子を自分の家に入れた時、伊達正男を養育しはじめた時、必ずや夫人との間にトラブルがあつたにちがいない。もつとも、伊達正男を養育するについては無論事の真相は徳子にはいわなかつたろうが、さだ子の場合には多分事実をばらしたろう。こうやつて表向きは立派だが、駿三の家は、内面的には極めて暗い、じめじめした家庭を作つていたわけなのだ。
「駿三は、しかし過去のあの秘密におびやかされつづけて段々衰えて来た。ことに、脅迫状を受け取つてからは一層それがひどくなつてついには職を抛つようにさえなつた。ところで一番賢明で元気だつたひろ子が、家庭の秘密を嗅ぎ出したのだ。彼女は、かねてからクリミノロギーや探偵小説に興味をもつていた。自分の家の状態を考えてから彼女は今までの趣味をそのまま実地に応用して考えはじめたのだ。今までの蘊蓄を傾けて、自分
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