仇討に着手しなかつたのかね。まるで探偵小説みたいじやないか。ある一家を呪う犯罪人は、探偵小説の中でも一番まずい時にいつも出て来るじやないか。シャーロック・ホームズだの、フィロ・ヴァンスなんかが登場してからやり出すからいけないんだよ。林田英三だつて君のような名探偵が出て来る前にやつつけりやよかつたのに」
 検事が好い質問をした。これは私もこの時、胸にいだいた疑問であつた。
「名探偵はおそれ入るね。シャーロック・ホームズやフィロ・ヴァンスの場合はいざ知らず、我が林田英三君は現れるにはちやんと現れるべき時をえらんでいるよ。決してその点は不用意じやないよ」
「というのは、例の脅迫状の一件かい」
「そうさ。これには林田英三の心理に立ち入つて見る必要があるんだ。彼は、学校を無事に出て名探偵になつて安楽にくらしている。何もすきこのんでこんなさわぎをする必要はなかつたんだ。では何故こんなまねをはじめたか。

      3

「直接の動機は今も云つたように里村千代の脅迫状だつたんだ。これを受け取つた駿三が、この世の中でたつた一人の頼りとして林田をえらんだ。これは無論、駿三が、私立探偵として林田の功績と声名をよく知つていたからだ。そこで駿三は林田だけには過去の罪を悉く述べたのだ。駿三の白状を聞いた林田は運命の相似形をしばらく驚嘆して見つめていたにちがいない。しかも頼つて来た相手は、四十年前の宿命の三角形の一角にいるべき山田家の息子だ。この三角形の相似がどれほど彼をおびやかしたかは蓋し想像するに難くない。幼少の頃、深くほりこまれた呪いが、成人した林田の頭の中で再び息をしはじめる。彼は何者だ。私立探偵である。犯罪人を追うことによつて、犯罪を研究することによつて、彼は完全なクリミノローグになつている。しかも、自分の過去をめぐる宿命の三角形の中に、相似形が又ここに一つあらわれている。もし犯罪が行われればフレッシュな内側の三角形が無論問題になるべきで、それがため林田が関係している四十年前の三角形は巧みにかげにかくれていることが出来る。
「永年の間、眠つていた呪いが頭をもたげはじめた。加うるに犯罪学者としての彼の自信が彼をけしかけた。いざという場合にはことごとく嫌疑は脅迫状の送り主にかかる。更に加うるに秋川家のあのふしぎな家庭内の空気がある。時正に乗ずべしというわけさ」
「それにしても藤枝君、君
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