どこかに行きましたよ」
「さあそこだ。林田は一体どこへ行つたか」
 藤枝はそういつて一座を見渡した。
「電話だ。電話のある所だ。なるべく人に聞かれないような工合にできている電話さ」
 答えたのは検事だつた。
「そうだ。君の云う通りだ」
「藤枝君、今君に云われてやつと考えついたんだよ。林田はどこからか、里村千代に電話をかけて何か云わせたんだ。それでほら、初江に怪しい電話がかかつて来たわけだね」(風呂場の花嫁第一回参照)
「そうさ。その通り。五時二十分頃に、初江をよび出して彼女に次のように警告せよと云つたんだ。『木沢氏の薬をのんではいけない、危険だから。必ずのんではいけない』と。これは林田があとで検事や警部に話した通りだ。(警部の論理第三回参照)ここまでは林田はほんとうのことを云つてる。しかし彼が千代につけた智慧はこれだけではなかつたんだ。まだあとがある。『ひろ子さんの机の上に一包薬がおいてあるがあれをおのみなさい』と、これは一つの仮説だがたとえばこんな事を云つたのだろうよ。

      13[#「13」は縦中横]

「そこで僕は、かねて林田の所持して懐中していた薬にはいろいろ種類があつたと考えるんだ。もし、初江が偶然にも、あの時風呂にはいらなかつたら、林田は第一の事件の如く今云つたような電話を利用して、初江に昇汞か何かを呑ませたろうと思う。ひろ子はずつと下にいたから、その間にそつと薬を机の上におけたに違いない。ところが、ひろ子と小川君がしやべり、さだ子は伊達と会つていたために、初江が偶然五時半、すなわち彼女が薬をのむ時間に、風呂にはいることになつたんだ。ここに於いて、林田はいかにも林田らしい方法を考えついた、彼はできるだけ派手に犯罪を行おうと決心した。初江はいよいよ風呂にはいることになつたが、この時不安なのでもう一度林田に相談した。この時林田は初江に『それは電話の忠告通りにした方がよろしい。そしてその薬は風呂の中ですぐのんだ方がいいでしよう』と云つたのだ。絶対に林田を信頼している初江はすぐこのトリックにひつかかつて、ひろ子の室においてあつたかどこにおいてあつたか知らぬがともかく、林田のもつて来たヴェロナールを風呂場にもつて行つてすぐ湯の中でのんだんだよ。これが五時半のこと。そこで僕は犯行はおそらく六時前後におこなわれたのだろうと思うのだ。というのは、ヴェロナールは風
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