#「犯罪人の愚挙」に傍点]をここでやつてるから面白い。彼は自分が家の中から出て、又はいつたものだから、僕がいきなり家の中の人を疑うと思つたんだね。従つてスリッパを一つ一つ調べるとこう考えたのだよ。彼は僕の頭脳をはかるのに二度失敗している。一回は馬鹿にしすぎた。一回は買いかぶり過ぎたんだ。レコードのトリックね。あれは少々僕の耳を無視した話さね。自分に音楽が判らないからと云つて僕にまで判らぬと思われちや困るよ。ショパンの葬送行進曲位は僕だつて知つている。レコードを調べなくたつてちやんと耳できいているんだ。所がスリッパの点では少々買被られちやつたよ。成程、僕としてはあの時すぐスリッパを調べるのが賢明だつたかも知れぬ。しかし探偵小説に出て来る名探偵でない限り、そんなに頭が働くものではない。君も知つてる通り、あのスリッパの件は全く偶然のきつかけで発見したんだ。(惨死体第五回参照)林田先生はこの偶然を知らなかつたのだよ」
「そうか。それでまず第二の惨劇はわかつた気がする」
 私がこう云つた時、検事も警部も同感という顔をした。
「では次に第三の事件にとりかかろう。第三の事件は四月二十五日の夕方行われた。二十日から五日ある。此の間の秋川邸の人々の心の動きがまた中々興味があるけれどその辺は長くなるからとばすとして当日の模様から説明する。御承知の通り、あの頃、僕は熱を出して床についていたため、実際自分で前後の事情を見ていたわけではないが、幸い小川君が非常に詳しくその有様をおぼえていてくれたので大いに助かつた。
「あの日、林田、ひろ子、初江、小川がドライヴをした。この日、初江の胃が悪かつたという事実を木沢医師が、小川、林田の前ではつきりいつている。林田はこれをきいて又チャンスあらば、と心ひそかに考えたのだ。ドライヴは初江の胃痛の為きり上げられて、夕方四時半に四人とも帰宅した。いつも出て来る筈の笹田が出て来なかつたので、笹田はどうしたのかと林田が先ずきいた。(第三の悲劇第十二回参照)これはこの家の中で犯罪を行う以上、家の中の人々の動静を知る必要があつたからだ。ところが林田の為には幸いにも笹田はその日の午後からずつといなくなつていることが判つた。ここでいよいよ彼は決心を堅めたのだろう。

      12[#「12」は縦中横]

「さてここでまた奥山君にはいやがられるが、犯罪人の個性の具体的
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