「林田のプランはこうだつた筈だ。まず草笛のサインでやすが庭の暗い所に行く。それをあとから行つて、ただちに扼殺する。この間早川辰吉は馬鹿な顔をしてポストのかげにかくれて待つている。そのうち、家の中で事件が発覚すれば、ただちに周囲が警戒され、従つてこの際、辰吉が怪まれて捕まる。いや辰吉が捕まらないでもともかく、自分には危険が来ない。とこういうのが彼の計算だつたのだ。ところがこの計算が外れて辰吉が邸内に侵入した。それが為林田は、早川辰吉に、自分が庭に出る所を見られている。ただ辰吉が狼狽していたために彼をはつきり認めなかつただけで、実は林田に取つては、興廃この一挙にありという所だつたんだ。しかるに全く偶然にも彼はこの危険を脱出した。と同時に、危険が一変して安全となつちまつたんだ。見給え、高橋警部は、侵入した早川辰吉を今まで怪しんでいるじやないか。実際あのきわどい所をうまく逃れたのは全く林田の悪運の強い所だつたんだ。さてそこで、元に返つて林田の行動を話そう。彼はさだ子の部屋で、僕の呼ぶ声を聞くとあわてて飛び出して来て、二つの死体を調べはじめた。それから警部刑事が来てからずつとガラス戸の入口からはいつて行つた。この時、警察の人々は庭、僕と小川君は裏門の方を廻つていた。林田は誰にも見られぬようにピヤノの部屋にはいる。はいつて見ると幸にも庭に面した窓のブラインドがかかつていて外から中が見られぬようになつている。これは、ひろ子が何の意味もなくやつたことだつたが(藤枝の観察第三回参照)彼にとつては中々有意義だつた。彼はそこでパデレヴスキーのレコードを取つてハンカチか何かで、はじめの方を極く僅かきれいに拭い、そこまでしか針が進んでいなかつたように見せた。だからあとになつてからあのレコードから僕と林田の指紋が出て来たはずなんだよ。(殺人交響楽の項参照)そうしておいて、日本座敷に来り、今云つたさだ子のためにアリバイを立証して、自身を守つた後、ひろ子に土のついたスリッパの話をして(藤枝の観察第四回参照)さつさと秋川邸を出て行つたのだ。どうだい。これで、第二の惨劇の説明ができたつもりなんだが」
プカリと煙を吹いて藤枝は一座を見廻した。
「うん、よく判つた。それにしても腑におちない所が三つある。第一に何故林田は駿太郎の死体にあんな細工を加えたか。第二、レコードのトリックは何を意味するのか。第三、
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