が庭の方に歩いて行く。あとをつけようとしたが暗くてわからぬので断念したが、どうも伊達のようすがおかしい。しかし、私はあなた方に好意をもつているのだからこれは秘密にしておいてあげる。またあなたも知らぬ振りをしていらつしやい』こういうことを云つたんだ。その途端、僕が庭から声をかけたので、彼は何くわぬ顔をして二階から顔を出したのさ。そうして今度はまつすぐに下りてまたスリッパ[#「スリッパ」に傍点]のまま庭に出て来た。この騒ぎをきいて、さだ子はぎよつとする。もしや……伊達が……と疑う。この疑いはすでに第一回の事件の時に、さだ子の心には多少あつた。彼女が、十七日の夜、自分の書斎に伊達が一人でいたことをかくしていたのは無論、多少ともこの疑惑があつたからさ。今度の第二回目の事件でいよいよさだ子は伊達を疑い出した。ここで、順序がちよつととぶが、林田のアリバイをもうすこし説明しておく。

      9

「彼は、僕が死体を発見して庭からどなつた途端、二階のさだ子の部屋の窓から首を出している。これで外見では立派にアリバイが立つたわけだ。実は彼は一度危機に迫つている。それは小川君とひろ子が駿太郎の行方を探して、階段の中途まで上つて駿太郎の名を呼んだ時だ、(第二の惨劇第七回参照)もしあの時二人がほんとに二階に上つてさだ子の部屋まで行つたらそこに林田のいないことが判つたはずだからな。が、あの際二人が二階まで上らなかつたことは極く自然なことで手おちとは云えまい。さて林田は、惨劇がおこつた後、如何にしてさだ子に沈黙を守らせるべきか、ということを考えた。しかして彼は実にこれを巧みに遂行してしまつたんだ。君はおぼえているだろう。第二の惨劇の直後われわれは日本座敷に集つている秋川家の家族に会つた。
「その時僕はあの当時の家族の行動をきいた。『さだ子さんは、この騒ぎの時上の部屋にたしかにずつといたんだね』と僕がかなり無遠慮に質問をした。すると、その刹那さだ子が赤くなつて下を向いたことを君はおぼえているかい。しかしてその時、林田が『ああ、さだ子さんは、僕と話をしていた。さだ子さんの部屋でいろいろ質問をしていたんだよ[#「いろいろ質問をしていたんだよ」に傍点]』とあつさり答えたものだ。(惨死体第五回参照)ねえ、この一ことは非常に重大な役割を演じたのだぜ。林田はこの一言でさだ子のアリバイを証明してやつたと同
前へ 次へ
全283ページ中248ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング