のとたんにもつていた劇薬とすりかえたのさ。やす[#「やす」に傍点]の目の前で行われたつて巧にやれば判りつこはない。第一やす[#「やす」に傍点]が目を離さず見ていたかどうかも甚だ疑わしいよ。
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「薬がどうしてもこの時にすりかえられていなければならぬと考える理由は、後のやすの態度でも判るけれども、それ以外に、この時より外にはあの薬がすりかえられることは不可能だつたと思う理由がある。というのはあの完全に貼り付けられている封緘紙[#「封緘紙」は底本では「封縅紙」]さ。あれは完全で中味がかわつていた。これは何を意味するか。すなわち、封緘紙[#「封緘紙」は底本では「封縅紙」]はまだ糊の乾き切らぬうちに一旦はがされ、そのまま又上から貼り直されたのである。すなわち、それは西郷薬局の主人が貼りつけてからいくらも時が経つていなかつたという証拠だ。」
「だつて、それじやあとでやすが誰かに林田のことを話すかも知れないじやないか。第一やすは林田を一体何だと思つたろう」
私は疑わしい点と思われる所をはつきりときいて見た。
「やすは林田を何と思つたか判らない。無論林田はそれまでに秋川家に行つていないからやす[#「やす」に傍点]とは初対面だつたろう。そこで彼はまず自分は探偵だとまともに名乗つて脅かしただろうと思う。君は偽刑事が世に横行することを知つてるだろう。丁度やす[#「やす」に傍点]の場合のように人に見られて悪い所を見つかつた女は、こんな場合、相手が刑事とか探偵とか云えばすぐ信用してしまうものなんだよ。ことに林田は偽どころか立派な探偵だからすぐ信じるのは当然さ。そこで彼はいきなり彼女の情緒に訴えたのだ。ねえ、判るかい。『この薬はどうも怪しいが一旦お前に返しておく。ところであの男、すなわちお前の情夫はかねて怪しいとにらまれている者だ。もし万一のことがあればあの男にすぐ嫌疑がかかる。ひいてはお前の身にも悪いことがあるに違いない。だから俺がお前たちの為に、黙つていてやるから俺に会つたことも決して人に云つてはいかん』と充分おどかしておいたのだ。その夜、主人の妻が殺される。薬が毒にかわつていた。とすれば佐田やす[#「やす」に傍点]は林田を疑わずしてまず辰吉を疑うのだ。彼女は、辰吉と二人で話していた間に帯の間の薬をとりかえられたかも知れぬと考えはじめたわけさ。手にもつて帰つたなんて大嘘
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