奮を抑えているらしい。
「父の罪亡ぼしでございます。私は父の過去も伊達さんの過去も存じません。ただ女の直観としてそう思うのでございます。父は過去に、伊達一家に対してなした何かの罪のつぐないをしているのでございます。私は自分の本能を信ずると同時に、この事実が論理的にもよくこの状態を説明することが出来ると信ずるものでございます。もしそうでなければ、何度もくり返す通り、何故父があんな馬鹿げた婚約の条件を出したのでございましよう」
藤枝が、全く興奮した表情で思わず何か云おうとした途端、口にくわえたシガレットが床に落ちたが、今度は彼はそれに気がつかなかつた位、ひろ子の話に夢中になつていたのである。
8
この藤枝の様子に気がついたかどうか判らぬが、ひろ子は更に話をつづけた。
「ねえ先生、それに伊達さんの相手がさだ子ではございませんか。さだ子は母が死ぬ前の日に申した通り、たしかに母のほんとうの子ではございません――おお、そういえば、先生は、あれはしかしたしかに父の子だといつかおつしやいましたね」
「そうです。今でもそれは信じています。ひろ子さん、あの方の横顔をよくごらんなさい。争われぬものですよ。お父さんに実によく似ているじやありませんか。どんなにかくしても真実の肉親は必ず横から見ると判るものですよ」
「そうでございますか……と致しますとなおさら二人を疑わねばなりませぬ」
「とはまたどういうわけで?」
ひろ子はちよつと何か考えていたがやがてまたつづけた。
「これは子として父を非難することになりますので、大変申し上げにくいのでございますけれど……事がこう切迫した以上、それに父がどうしても口にはつきり出さない以上、おまけに私がすでに犯人と思われる人の名をはつきり申し上げた以上、かくしておくわけに参りませんからお話致しますが、さだ子が母の子でなくてしかも父の子であると致せば、さだ子の母は何者でございましよう。勿論私には判りかねます。けれど、父が再婚したという話はきいておりませぬから、きつとさだ子の母というのは私の母以外の者で、何と申しますか、まあかくれた女だつたと思うより外仕方がございますまい。母が死ぬ前にちよつと口を開いた当時の口ぶりによつても、そう考えるのが一番真相に近いと存じます。母のことですから、さだ子の生母の事を知つても、烈しく父と争わなかつたにちがいあ
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