ようどこの一時間の間に何者かに殺されたことになるね。無論あれは他殺だが。して見ると、家の中で一体誰が彼女を殺すチャンスをもつていただろうな」
「まず第一は君の云つたように主人だね」
「そうだ。第一が主人だ。それから?」
 私は暫く考えて見たがどうもはつきり判らない。
「さだ子はどうだい? 小川、君どう思う?」
「うん、さだ子はずつと二階の部屋にいた筈だよ。初めは伊達と二人、あとでは林田と二人でね」
「重大なのはここだよ。彼女が伊達と二人でいた間に初江が殺されたか、彼女が林田と二人でいた間に初江が殺されたか。この一点は実にこの事件の中心なんだぜ。ところで彼女はいずれの場合にもずつと部屋にいたと云つているし、相手の伊達、林田もこれを認めている。ただこの中、伊達の言葉は決してあてにならん。さだ子と一番妥協しやすい立場にいる人間だからな。林田は自分でも、ずつとさだ子に警察の話をきいていたと云つているし、さだ子とは容易に妥協しそうもない男だから信じていいかも知れない」
 彼はこう云つたが、この時、急に緊張した顔をした。
「しかし君、さだ子を林田が調べていたということについて何か妙なことを思い出しはしないかね?」
「妙なこと?」
「うん、そうだよ」

      4

 私には藤枝のいう意味が判らなかつた。彼は私の当惑した顔を暫く黙つて見ていたが、やがて又つづけた。
「君には何も思い当ることがないらしいね。いや、判らなければそれでいいんだよ。そこで、駿三、さだ子、伊達の行動がまあはつきりしなかつたとして、ひろ子はどうかね」
「ひろ子はずつと僕と一緒にいたよ」
「初江が去つてから君とずつと話をしていたようだね。従つて僕は君を疑い得ないと同様に彼女を疑う事が出来ない。ただ最後の一番重要な所を除けばだね」
「というのは?」
「ごはんの支度を見てまいりましよう、と君に彼女が云つて庭から去つて、それから君が彼女の悲鳴をきくまでに、僕のきいた所によれば少くも二、三分のあいだがあつた筈だ。彼女は台所に行つたと云つている。成程これはほんとだろう。それから風呂場に行つている。しかし彼女が何分台所にいたかということは誰にも証明が出来ない。ともかく、彼女が一旦台所に現れ、すぐ風呂場にいき、いい気もちで寝風呂にはいつている妹のそばに何気なく近づき、スミスのような真似をする機会はたしかに恵まれていた筈な
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