のである。彼はもはや泣声すらもあげ得ない。
 駿三、ひろ子、さだ子、伊達らは、皆下の日本座敷に集つた。
 高橋警部は風呂場を一応調べると一分も無駄にせず、日本座敷に運ばれた初江の死体を仔細に観察しはじめたが、木沢、野原両医師に対して、必死の様子で重要な質問を出しているらしい。
 今回の事件は必ずしも他殺とは限らず、現に木沢氏もさつき云つたように、初江の入浴中に、癲癇《てんかん》か何かの発作がおこつて、一時意識を失いそのまま溺死したのかも知れない状態にあるので、今や医師の供述、観察は非常に重大なものとなつて来た。警部は、ひそひそと二人の医師と話をつづけた。
 ところへ、待ちに待つた藤枝が来たということを女中の久や[#「や」に傍点]がとりついだので私はいそいで玄関に出迎えた。
「驚いた! 電話でちよつときいたがもう一度詳しくききたいんだが……」
 誰もおらぬ応接間で、私は藤枝とさし向いになつて、今までの経緯をあらまし語つたのであつた。
 藤枝は、一言も洩らさずに黙つてきいていたが、風呂場の有様を語ると、彼は全く意外という表情を表わしたが、しかし何も云わぬ。
 ところへ林田がはいつて来た。
「藤枝君、大変なことがおこつたよ、ご病気中にね。まだ余り顔色がよくないがもういいのかい」
「うん、ありがとう、未だいけないんだが、病気どころじやなくなつちまつた」
「今、警部があちらで、ひろ子さんを調べているんだが」
「そうか、じや僕もきかして貰おう」
 私どもは日本座敷にはいつた。
 ひろ子が死体発見の有様を警部に語つている所だつた。
「小川さんと暫くお話していましたが、六時四十分頃になつても夕食のしらせがないので、気になるので私はうちにはいり、一旦台所にまいり二人の女中にただしますと、もうできていると申します。初江は一体どうしたのかと思いまして、台所からの戻りがけに、お風呂の外から声をかけましたが答えがありません。余り長いのでドアをあけて中を見ますと、妹は、足を湯の上に出し、全身を湯の中につけて……頭を全く湯の中につけて死んでいたのでございます」

      10[#「10」は縦中横]

 それから彼女は悲鳴をあげて私達を呼んだ事を述べたが特に注意すべき事柄もなかつた。
 警部は、ひろ子が初江の死体を発見した時の有様を更に訊ねたが、ひろ子の供述は全く私自身が見た場合と同じで、林田
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