しかにその浴槽の中に! 八分目満されている湯に中に頭を沈ませ、そうして両脚を上にのばして! 仰向けになつて、沈んでいるではないか。
私はこの時、林田が、口の中で、
「ジョセフ・スミスだ! 風呂場の花嫁!」
というのをきいた。
此の物凄い光景を見た刹那はじめて私もこの言葉をはつきりと思い出したのである。
二人はただちに浴場にかけこんだ。
既述の通り湯は浴槽に八分目位はいつている。
浴槽の広い方を頭にして、初江は無論全裸体で仰向けになつている。身体は殆ど全部湯の中に在り、頭も、目も、鼻も、耳も、つまり顔全部が水面から約二、三寸下になつて水にひたつている。手は一方を胸に、一方を横に延ばし、そうして、両脚を狹い浴槽の端にニユツと突出しているのだ。
7
この恐ろしい、しかし不思議な初江の形を、私は再び下手ながら図に書いて明らかにしようと思う。かくする事によつて、この奇怪な事件が読者に一層はつきりわかると思うから。
なお、序に検証の結果後に判明したところを記すと、浴槽の長さはAB、内側でこれが丁度五尺五寸(但しこれは一番上のひろい所で)底の部分すなわちCDの長さは三尺八寸、巾はEF(すなわち一番広い所)が二尺、底GHが一尺六寸、足の方に当る浴槽の上が(IJ)一尺七寸、底KLが一尺一寸五分であつた。
高さはMNが一尺四寸、OPが一尺四寸二分。
しかして初江の身の丈は五尺一寸あることがはつきりとわかつた。
美しいお嬢さんが、この姿で風呂槽の中につかつており、周囲は全く静かで、時々栓からポタポタと音がして湯がたれている。この妙な不気味な静けさは我慢出来なかつた。
[#浴槽の被害者の図(fig1799_04.png)入る]
正視するに忍びず、という感じで私はあわてて初江の身体を抱きあげようとしたが、それまでにさすがに心をしずめて初江の水の中の顔をじつと見ていた林田が、いそいで口を出した。
「多分もう駄目だろうが法律が何と云つたつてこの死体をここにほつておくわけにはいかない。すぐ木沢氏をよんで出来るだけ早く手当をしてもらわなけりやいかん。しかし、この状態を君ははつきりおぼえておいてくれ給え」
私は、そう云われて改めてこの状態を充分頭に入れたが、いつのまにか林田は風呂場から出て電話の方に行つているらしく、あわてた声がきこえる。やがて彼は再び戻つて来
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