えた時、林田と並んでさだ子と伊達が顔を出した。
「小川さん、お姉様の花を見ていらつしやいますの? 其の隣が私の花壇ですのよ」
「そうですか。これも美しいですね」
「一つ僕も拝見しようかな」
林田が云つた。
「いらつしやいよ。ほんとにいい景色だから」
林田はちよつと考えているようだつたが、さだ子に何か云つてから、
「じや僕も下りましよう」
と私に声をかけた。
「ああ直ぐ下りなさい。待つてるから」
私のいうのに応じて、三人の顔が窓から消えた。正にその刹那だつた。
突如家の中から、絹を裂くような女の叫び声がきこえた。
私はこの時の恐ろしさを、おそらく墓場に入るまで忘れないであろう。全く裂帛《れつぱく》の叫びとはこの時私がきいたのをいうのだろうが私はその刹那全身が一時に凍つたかと思つたのである。
「誰か来て! 誰か! 先生! 小川さん」
まぎれもなくそれはひろ子の悲鳴だ。
瞬間、石のようになつていた私は、その言葉をはつきりきくと弾丸の如く――否、おそらくはそれ以上のスピードで、花壇を一とびにとび越えて、ガラス戸の入口から中におどりこんだ。
夢中になつて靴のままおどり込み、そのまま真直ぐに進んで行くとまつさおになつて倒れかかつているひろ子に危くぶつかりそうになつた。
「ひろ子さん! どうしたんです? どうしたんです?」
ささえるように私は彼女の肩に手をかけて叫んだ。
「初江が! 初江が!」
気丈のひろ子も、余程恐ろしいものを見たらしく、これ以上口がきけぬようすでただ右手を延ばして風呂場の方をさすばかりである。
ところへ、林田、さだ子、伊達が驚いてかけつけた。
「どうしました? ひろ子さん」
「初江が……あそこで……」
ひろ子はこういつて私にぐつたりと倒れかかつた。あわててさだ子と伊達が抱きとめたが私はこの時ひろ子がつぶやくように云つた言葉を聞逃がさなかつた。
「風呂場の花嫁! おそろしい! 風呂場の花嫁!」
6
ここで、私は恐ろしい風呂場の惨劇を展開する前に読者に風呂場の位置を、はつきりとお伝えしたい。
玄関を上つて左手が笹田執事の室、反対に右側が応接間であることは既述の通り。応接間のすぐさきがピヤノの部屋で、そのまたさきに、ガラス戸の入口がある。
玄関からまつすぐ廊下があり、やや右に曲つてはいるがそのつきあたりが二階へ通ずる階
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