う青年なんですがね。それが捕まつたので私も警察に行つて来たんです。私があつちにいるうちに伊達君も来られたようでしたよ」
「先生、伊達さんにお会いになりまして?」
「いや、会いませんでした」
「で、いかがなのでございましよう。伊達さんは捕まつてしまうのじやございませんかしら。昨夜、いろいろ警察の方にきかれていましたのでもうすんだことと存じておりましたのに」
「さあ、しかし、警察では、その早川辰吉の方をにらんでいるようすですから、伊達君の方は大丈夫でしよう。第一、罪のない者なら少しも心配する事はありませんよ」

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「でも、その早川という人が怪しいときまれば伊達さんが捕まる筈はないと思いますのですが……」
 ひろ子と同じような質問がここでまた彼女の口から出た。しかし、全くひろ子のが論理的であつたのに反し、さだ子の質問にはどうやら必死の熱情が感じられた。
「さあ、警察の方針については私も確かとしたことは云えないのですが、昨夜のような事件がおこつた場合、一応皆にきいてみる必要があるのでしよう。必ずしも伊達君が嫌疑をかけられているとは限らんですよ。そう御心配になる事はありますまい」
「そうでございましようか」
「つまりこうなんでしよう。昨夜伊達君が一旦御当家を辞した後、二階であなたと話していた。そこへ林田君が来たのであなたは林田君を自分の部屋へつれてはいられたその後、伊達君がたしかにまつすぐにうちに帰つたかどうかが自分で証拠をあげられぬというんでしよう。ねえ」
「はい」
「それ以外に何か心配な事はあなた御自身でも何もないのでしよう。たとえばその伊達君が、邸内をうろうろしているのを誰かに見つかつたなんていう事はないのでしよう」
「そ、それは勿論でございます」
 さだ子はこの言葉を極めて力強く云い放つたけれども、その声は明らかに異様な慄えをおびていた。彼女は必死でこの言葉を発したように見えた。
 藤枝はこのようすに気がついたかどうか、急になぐさめるような調子で語りはじめた。
「それごらんなさい。何ら積極的な嫌疑は、伊達君にはかけられていないのですよ。安心なさつてよいでしよう。――時に、これは婚約者の事に立ち入つて甚だ恐縮なんですが、一体、伊達君が二度目にもどつて来てあなたにお話したというのはどんな重大な事なのですか? もし云つてもいいのでしたら承りたいものですがね」
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