つたあのさわぎの為に、お父様のはつきりしたお答をうかがう折を失つてしまつたのです。今日になつてうかがおうと考えたのですけれど、御病気だということです。かりに御病気でないにせよ、私は官憲ではないのですから、お父様が私に会うことをお断りになれば強いて御目にかかるわけにはいきません。して見れば、まず私はお父様からは答えて頂けないものと思わなければなりません。林田君だつてそれはきけないかも知れない。結局、これはあなた方お子さんが直接おきき下さるより外に道はないのです。勿論私自身の方でも伊達という人の素性を取調べ中ではありますが[#「勿論私自身の方でも伊達という人の素性を取調べ中ではありますが」に傍点]……」
 何故か藤枝は最後の言葉を極めて力強く云つて暫くじつとひろ子の顔をながめた。
「あなたか、さだ子さんか、初江さんにこのことはお頼みしたいのですが、さだ子さんと初江さんは私をどの程度に信じていて下さるか判らない。あなたなら私を信じていて下さると思いますから……」
「無論でございますわ」
「ですから、是非ともお父様にあの点をはつきりきいていただきたい。勿論、機会を捕まえなくてはいけませんよ。むやみにお父様を責めたつてだめですよ」
 ひろ子はにこやかに微笑した。
「判りました。おつしやる通りにやつて見ます」
 彼女は充分引き受けたという調子で、紅茶を一口ぐつとのんだが、急に藤枝を見ながら、
「ではやつぱり先生も! あの伊達さんを」
 と云い出した。
「え! 何ですか」
「つまり早川とかいう男が犯人とは信じていらつしやらないのでしよう」
「どうしてですか」
「でももし早川が犯人だとすれば伊達さんのことなんかお調べになることはないのではございませんの。結局早川とかいう人以外に犯人があるとお考えになつていらつしやるのでしよう」
 彼女はちよつと微笑を表わした。
「ひろ子さん。誤解してはいけません。早川の話と伊達君の話はまつたく別ですよ。ともかく伊達君の事をはつきりきいて下さい」
 彼は口ばやにこう云い終つた時ドアがあいて、さだ子が憂わしげな顔をしながら、部屋の中にはいつて来た。

      4

 我国には昔から「雨に悩める海棠《かいどう》」という形容がある。この時のさだ子が私に与えた印象位、この言葉にしつくりあてはまつたようすを私は今まで見たことはない。
 勿論、秋川一家の人々
前へ 次へ
全283ページ中130ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
浜尾 四郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング