こと、これらをつくづくと考えたのです」
8
「嘘かほんとうか判りませんが、とにかくやす子がもつていた薬が劇薬にいつの間にかかわつていたとすれば、あの日彼女にひそかに会つて話をしたことに嫌疑のかかるというのは不思議ではありません。十八日頃の秋川家のようすと云い、あの夕刊を見ても、やす子の話はまんざら嘘とも云えぬのです。こう考えて来ると私は真に不安になり出したのです。それに、今警部さんも云われた通り、いくら私がうぬぼれてもやす子が今私に恋してるとは思えないので彼女がはつきり私のことを、警察なり探偵の方に云つてしまえば私の立場は実に危いのです。何分私は今は一定の職もなく、偽名を用いて宿にいる人間ですから、変に思われても仕方がないのです。
「こう思うと、一刻ももはやぐずぐずしてはいられませぬ。それに、やす子の話では、自分にたつた一人親切にしてくれる人があつてやす子をかばつてくれてはいるということですけれど、その方というのは私の事を疑つているのだそうです。それがほんととすればやす子は少くともその人には私の事をしやべつているに相違ない。これはぐずぐずしてはいられぬと思つて、別段にあてもなく下宿を飛び出してしまいました。それからどこをどううろついてたかおぼえませぬが、はじめて上野駅にまいりました。が、あそこは何だか、刑事さんが張り込んでいるような気がしておちつけませんので、とうとうしまいに新宿駅へと来てしまつたのですが、その時はもう夜が更けて汽車がないので、疲れ切つてあの辺をうろうろしておりますと刑事さんに怪しまれてつれて来られたのです。かような次第で、私が昨夜秋川家の塀をのり越えて人様の庭に忍び込んだのはたしかなことで申し訳ありませんけれども、やす子の死については全く存じませんです」
早川辰吉は、こう云つて不安気に一座を見渡した。彼の様子にはしかし落着いたところは見られなかつた。
「じやお前は、やす子を殺したのが恐ろしいのではなくて、秋川夫人の殺人犯人と見られはしまいか、というのであんなにあわてて宿を飛び出したというのか」
「は、そうです。それに相違ありません」
「ではお前は、秋川夫人の死に関係があるのか」
「え? 何ですつて?……いいえ絶対にありません」
「そんならお前は何もそんなにあわてて逃げ出す必要はなかつた筈じやないか。つまりお前があの事件に何か関係が
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